「連覇か?連勝か?」
2019.03.20
1月26日、大坂なおみ選手が「全豪オープンテニス」で優勝しました。
これで大坂選手は昨年秋の「全米オープンテニス」に続き、
「グランドスラム大会」を連続して2つ制覇したことになります。
この素晴らしい快挙ですが、報じる立場となると、一つの疑問が・・・。
果たして、「連覇(2連覇)」「連勝」、どちらで呼ぶのが正しいのでしょうか。
「全米オープン」で去年と今年の両方を優勝すれば、「(2)連覇」で間違いないでしょうが、優勝した二つの大会「全米」と「全豪」は別の大会です。
ただどちらも「グランドスラム」と呼ばれる4つの大会のうちの一つで、
「グランドスラム大会」というくくりでは、「連覇」と言えるかもしれません。
ちなみに、翌日の新聞各紙の表現は全て「連覇」ではなく、「四大大会連勝」でした。
この表現について、2月の新聞用語懇談会放送分科会で各放送局・各新聞社に意見を聞いたところ、「グランドスラムの大会を続けて優勝したので『四大大会連覇』とした」
という局が多かったものの、中には「四大大会2連勝」とした社も。
中には、いくつか興味深い意見も伺うことができました。
例えば高校野球の中継をしている局では、実例として
「高校野球は『春』と『夏』は別の大会だが、『同じ甲子園球場で行われる大会』というくくりで、『春夏連覇(夏春連覇)』」という意見が。
他には、
「グランドスラムは本来、4つの大会(全米・全英・全豪・全仏)の全てで優勝することだから、『グランドスラム連覇』と言うと『4大会全て優勝の連覇(=2回続ける)』となり、『8大会連続優勝』になってしまう」という意見も。
どちらの意見も理に適っており、「なるほど」と頷けます。
さらには、プロ・テニスプレーヤー達の視点からの印象深い考察も。
昨年の全米オープンの決勝でセリーナ・ウィリアムズ選手が大阪選手に敗れた際、
「これで、あなたもグランドスラマーになったから」と祝辞を述べましたが、
それに対し大坂選手は
「グランドスラム大会で1勝を挙げただけ」
つまり「『1勝を挙げたに過ぎない』にもかかわらず、『グランドスラマー』と呼ばれたということは、プロ・テニスプレーヤー達の間でも『グランドスラム』の意味が変ってきているのかもしれないのではないか」という考察です。
皆さん、きっちりと観察されているのですね!
その後の記事ではどのようになっているのでしょうか。
2月12日の記事(大坂選手がサーシャ・バインコーチとの関係を解消)では、
新聞各紙夕刊は、以下のように書いています。
(読売)四大大会連覇
(朝日)4大大会連覇
(毎日)4大大会2連覇
(産経)四大大会2連勝(「共同通信」の配信記事)
(日経)四大大会2連勝(「共同通信」の配信記事)
これで大坂選手は昨年秋の「全米オープンテニス」に続き、
「グランドスラム大会」を連続して2つ制覇したことになります。
この素晴らしい快挙ですが、報じる立場となると、一つの疑問が・・・。
果たして、「連覇(2連覇)」「連勝」、どちらで呼ぶのが正しいのでしょうか。
「全米オープン」で去年と今年の両方を優勝すれば、「(2)連覇」で間違いないでしょうが、優勝した二つの大会「全米」と「全豪」は別の大会です。
ただどちらも「グランドスラム」と呼ばれる4つの大会のうちの一つで、
「グランドスラム大会」というくくりでは、「連覇」と言えるかもしれません。
ちなみに、翌日の新聞各紙の表現は全て「連覇」ではなく、「四大大会連勝」でした。
この表現について、2月の新聞用語懇談会放送分科会で各放送局・各新聞社に意見を聞いたところ、「グランドスラムの大会を続けて優勝したので『四大大会連覇』とした」
という局が多かったものの、中には「四大大会2連勝」とした社も。
中には、いくつか興味深い意見も伺うことができました。
例えば高校野球の中継をしている局では、実例として
「高校野球は『春』と『夏』は別の大会だが、『同じ甲子園球場で行われる大会』というくくりで、『春夏連覇(夏春連覇)』」という意見が。
他には、
「グランドスラムは本来、4つの大会(全米・全英・全豪・全仏)の全てで優勝することだから、『グランドスラム連覇』と言うと『4大会全て優勝の連覇(=2回続ける)』となり、『8大会連続優勝』になってしまう」という意見も。
どちらの意見も理に適っており、「なるほど」と頷けます。
さらには、プロ・テニスプレーヤー達の視点からの印象深い考察も。
昨年の全米オープンの決勝でセリーナ・ウィリアムズ選手が大阪選手に敗れた際、
「これで、あなたもグランドスラマーになったから」と祝辞を述べましたが、
それに対し大坂選手は
「グランドスラム大会で1勝を挙げただけ」
つまり「『1勝を挙げたに過ぎない』にもかかわらず、『グランドスラマー』と呼ばれたということは、プロ・テニスプレーヤー達の間でも『グランドスラム』の意味が変ってきているのかもしれないのではないか」という考察です。
皆さん、きっちりと観察されているのですね!
その後の記事ではどのようになっているのでしょうか。
2月12日の記事(大坂選手がサーシャ・バインコーチとの関係を解消)では、
新聞各紙夕刊は、以下のように書いています。
(読売)四大大会連覇
(朝日)4大大会連覇
(毎日)4大大会2連覇
(産経)四大大会2連勝(「共同通信」の配信記事)
(日経)四大大会2連勝(「共同通信」の配信記事)
「共同通信」配信の記事を除いて、全て「連覇」を使っていました。
しかし、2月19日の夕刊(大坂選手の「ローレウス・スポーツ賞」受賞)の記事では、
(読売)四大大会2連勝
(朝日)4大大会2連勝
(毎日)【記事なし】
(産経)四大大会2連勝(「共同通信」配信記事)
(日経)四大大会2連勝(「共同通信」配信記事)
と「読売」と「朝日」も「2連勝」に変わり、
「連覇」という表現は、なくなっていたのです!(記事のなかった「毎日新聞」を除くと)
また「テレビ放送」ではどのように言っていたのでしょうか。
2月12日の放送では、
・日本テレビ「every.」=「4大大会を連覇」「グランドスラム2連覇」
(インタビューを受けた元プロ・テニスプレーヤ―浅越しのぶさんは、
「グランドスラムを2大会優勝している」)
・NHK「ニュース9」=「4大大会連覇を果たした」で「連覇」が多い結果になりました。
(私が校閲を担当する)2月18日の「ミヤネ屋」の放送では、
「全米・全豪 連続優勝」や「連覇」ではなく、「連続優勝」という表現を用いました。
最後に「ミヤネ屋」にご出演された元プロ・テニスプレーヤーの杉山愛さんに伺ったところ、
「本来は『四大大会全てに勝つことをグランドスラム』と言うので、全米・全豪と続けて優勝しても『連覇』はおかしいのだけれど、最近は一つ一つの大会を『グランドスラム』と呼ぶ傾向があるので、もう『(グランドスラム)連覇』も“許容”ではないでしょうかねえ」
と話していらっしゃっていました。
しかし、2月19日の夕刊(大坂選手の「ローレウス・スポーツ賞」受賞)の記事では、
(読売)四大大会2連勝
(朝日)4大大会2連勝
(毎日)【記事なし】
(産経)四大大会2連勝(「共同通信」配信記事)
(日経)四大大会2連勝(「共同通信」配信記事)
と「読売」と「朝日」も「2連勝」に変わり、
「連覇」という表現は、なくなっていたのです!(記事のなかった「毎日新聞」を除くと)
また「テレビ放送」ではどのように言っていたのでしょうか。
2月12日の放送では、
・日本テレビ「every.」=「4大大会を連覇」「グランドスラム2連覇」
(インタビューを受けた元プロ・テニスプレーヤ―浅越しのぶさんは、
「グランドスラムを2大会優勝している」)
・NHK「ニュース9」=「4大大会連覇を果たした」で「連覇」が多い結果になりました。
(私が校閲を担当する)2月18日の「ミヤネ屋」の放送では、
「全米・全豪 連続優勝」や「連覇」ではなく、「連続優勝」という表現を用いました。
最後に「ミヤネ屋」にご出演された元プロ・テニスプレーヤーの杉山愛さんに伺ったところ、
「本来は『四大大会全てに勝つことをグランドスラム』と言うので、全米・全豪と続けて優勝しても『連覇』はおかしいのだけれど、最近は一つ一つの大会を『グランドスラム』と呼ぶ傾向があるので、もう『(グランドスラム)連覇』も“許容”ではないでしょうかねえ」
と話していらっしゃっていました。
【執筆者プロフィール】
道浦 俊彦(みちうら・としひこ)
1961年三重県生まれ。1984年読売テレビにアナウンサーとして入社。現在は報道局専門部長で『情報ライブ ミヤネ屋』でテロップや原稿のチェックを担当するかたわら、98年から日本新聞協会新聞用語懇談会委員。著書に『「ことばの雑学」放送局』(PHP文庫)、『スープのさめない距離~辞書に載らない言い回し56』(小学館)、『最新!平成ことば事情』(ぎょうせい)など。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では2006年版から「日本語事情」の項目を執筆している。読売テレビのホームページ上でブログ「平成ことば事情」「道浦俊彦の読書日記」を連載中。趣味は男声合唱、読書、テニス、サッカー、飲酒(ワイン他)など。スペイン好き。
道浦 俊彦(みちうら・としひこ)
1961年三重県生まれ。1984年読売テレビにアナウンサーとして入社。現在は報道局専門部長で『情報ライブ ミヤネ屋』でテロップや原稿のチェックを担当するかたわら、98年から日本新聞協会新聞用語懇談会委員。著書に『「ことばの雑学」放送局』(PHP文庫)、『スープのさめない距離~辞書に載らない言い回し56』(小学館)、『最新!平成ことば事情』(ぎょうせい)など。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では2006年版から「日本語事情」の項目を執筆している。読売テレビのホームページ上でブログ「平成ことば事情」「道浦俊彦の読書日記」を連載中。趣味は男声合唱、読書、テニス、サッカー、飲酒(ワイン他)など。スペイン好き。
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