前議長・辛坊治郎氏も乱入!なぜ救えなかった?知床観光船事故の謎を考える!
2022.06.17
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世の中には解明できない謎は多い。最近起こった出来事にもまだまだ謎が残るものもある。6月12日放送の「そこまで言って委員会NP」では、いくつかの注目すべき事件・事故に残る謎を追うのがテーマ。知床観光船事故の謎は何か、論客たちに聞いてみた。
実は2年前の夏にKAZU 1に乗船していたことを明かしたのは大野裕之氏(劇作家)。「なぜベテラン乗務員を辞めさせたのか」と回答。「この事故は他人事ではない。2年前は波も穏やかで、船長さんは巧みに操縦していた。合理化で乗組員を入れ替えたと聞いて、行き過ぎたのではと思う。」
現場に近い網走出身の丸田佳奈氏(医師)は「周りの同業者との関係」と回答。「自然を相手にする事業者はライバル会社であっても情報交換によって安全を保ってきた。この会社は組合から抜けている。自分は地元出身なのだが、いい評判は聞かない。地元の中で連携がとれてなかったのではないか。」
小野一光氏(ノンフィクションライター)は「運任せの要素が強かった」と回答した。「ヘリを要請して、到着まで3時間かかっている。通常だと1時間程度で到着できるらしいが、海水温の低さからすると1時間以内に到着しても、救うことができるのか。事故が起きた時は助からない、起きなければ運が良かったという考え方で運行していたのでは。」
小川泰平氏(元刑事・犯罪ジャーナリスト)は「なぜ出航に踏み切ったのか」を謎として挙げる。「自分は趣味で1級船舶の免許を持っている。いつも言われるのは、出港を中止する勇気を持て、ということ。家族や友達を連れて船で出る日は特別な日。多少波があっても行きたくなるが、白波が見えたら出るなと言う。誰かを乗せることは、その人数分の命を背負うこと。そう考えると何で出航してしまったのか、残念でならない。」
出口保行氏(東京未来大学教授 犯罪心理学者)は「計画錯誤」という心理学用語で説明。「計画錯誤とは、過去に失敗した経験があっても、次は大丈夫だろうと思ってしまうこと。その時に人間の心理に働いてくるのが、楽観主義バイアス。自分は大丈夫と思ってしまうのが楽観的バイアスで、計画錯誤に楽観主義バイアスがくっついてしまうと、無茶な行動が起きてしまう。厳しい自然環境であることは誰でも知っている共通認識のはずなのに、なぜ計画錯誤が発生したのかも、きちんと調べておくべき。」
ここでこの番組の前議長、辛坊治郎氏がVTRで登場。太平洋横断に挑戦し海難事故の経験がある辛坊氏は「なぜ26人を救えなかったのか、それが議論から抜け落ちている。」と強調。
「すぐに救助に行けないような状況で、水温がひと桁では、「救命いかだ」がないとまず助からない。観光船には救命いかだが絶対に要るはずなのに、義務づけられていなかったし、搭載もしてなかった。それが最大の落ち度。自分があの観光船にもし乗っていたらと考える。冷たい海に浸かりながら助けてもらえると信じていた。その26人の気持ちが痛いほどわかる。全員死ななくても済む方法はあったはず。救命いかださえ積んでいれば誰も死んでないはず。26人は、助けられたと信じている。」
これを受けて門田隆将氏(作家・ジャーナリスト)が言う。「犠牲者を生まない最後のチャンスは3日前の船舶検査だった。水温2度や3度の海水は飛び込んだ瞬間に心臓が止まるぐらいの温度で10分以上生存するのは無理。冷たい海へ行くのに何で救命いかだも備えなくていいような法律なのか。これは大きな問題で、不備。起こるべくして起こった悲劇だ。」
医師である丸田氏が補足する。「あの水温だと20分以内におそらく失神するし、命はおそらく1時間から1時間半しか持たない。助けに行くことができない前提で、ボートを積まなきゃいけないのに、そのことも決まっていなかった事実がある。」
ここで番組議長・黒木千晶アナが報告。国土交通省では船から落下せずに避難できるスライダー付きの「救命いかだ」を新たに開発し、寒冷地を航行する小型旅客船への搭載を義務付ける方針を固めたという。それを聞いた門田氏は「遅い」と嘆く。
須田慎一郎氏(経済ジャーナリスト)が指摘する。「利用者にはこの業者が安全か安全じゃないかはわからない。安全性をチェックしなきゃならない。国交省北海道運輸局の責任は極めて重要。去年から座礁事故を起こし、その都度改善指導をやっていたのに、なぜ放置されてしまったのか。運行会社の経営体質の問題や船長の技術などもあるが、それでも運行させてしまった監督官庁の責任は極めて大きい。」
大野氏が新たな視点を持ち出す。「数年前にスキーのツアーバスでも痛ましい事故があった。新しい業者が参入できる規制緩和が行われた。規制緩和は大事だと言われるが、安全に関して過剰な規制緩和が行われたことが一つの原因になっているんじゃないか。」
門田氏も同調する。「規制緩和はあらゆる面で重要だが、生命と安全に関わるところは規制緩和しちゃいけない。安全をないがしろにし、命を軽視するやり方は、絶対に止めなければ。」
これを受けて須田氏が論じる。「安全性の部分は確かにコストがかかる。それに対するリターンが全くないから、業者サイドがカットしたがる。行政の責任としてカットしないように、安全性のところはむしろお金かけるぐらいのことをやってほしい。」
議論から、「救命いかだ」を積んでいなかったことの大きさがよくわかった。救える命があったかもしれないと思うとますます痛ましい。そして救命いかだが義務化されていなかったことを含めて、行政の責任も見えてきた。私たちに旅先での事業者の安全性をチェックするのは難しいからこそ、この事故を機に検討される新たなルールに期待したい。
【文:境治】
実は2年前の夏にKAZU 1に乗船していたことを明かしたのは大野裕之氏(劇作家)。「なぜベテラン乗務員を辞めさせたのか」と回答。「この事故は他人事ではない。2年前は波も穏やかで、船長さんは巧みに操縦していた。合理化で乗組員を入れ替えたと聞いて、行き過ぎたのではと思う。」
現場に近い網走出身の丸田佳奈氏(医師)は「周りの同業者との関係」と回答。「自然を相手にする事業者はライバル会社であっても情報交換によって安全を保ってきた。この会社は組合から抜けている。自分は地元出身なのだが、いい評判は聞かない。地元の中で連携がとれてなかったのではないか。」
小野一光氏(ノンフィクションライター)は「運任せの要素が強かった」と回答した。「ヘリを要請して、到着まで3時間かかっている。通常だと1時間程度で到着できるらしいが、海水温の低さからすると1時間以内に到着しても、救うことができるのか。事故が起きた時は助からない、起きなければ運が良かったという考え方で運行していたのでは。」
小川泰平氏(元刑事・犯罪ジャーナリスト)は「なぜ出航に踏み切ったのか」を謎として挙げる。「自分は趣味で1級船舶の免許を持っている。いつも言われるのは、出港を中止する勇気を持て、ということ。家族や友達を連れて船で出る日は特別な日。多少波があっても行きたくなるが、白波が見えたら出るなと言う。誰かを乗せることは、その人数分の命を背負うこと。そう考えると何で出航してしまったのか、残念でならない。」
出口保行氏(東京未来大学教授 犯罪心理学者)は「計画錯誤」という心理学用語で説明。「計画錯誤とは、過去に失敗した経験があっても、次は大丈夫だろうと思ってしまうこと。その時に人間の心理に働いてくるのが、楽観主義バイアス。自分は大丈夫と思ってしまうのが楽観的バイアスで、計画錯誤に楽観主義バイアスがくっついてしまうと、無茶な行動が起きてしまう。厳しい自然環境であることは誰でも知っている共通認識のはずなのに、なぜ計画錯誤が発生したのかも、きちんと調べておくべき。」
ここでこの番組の前議長、辛坊治郎氏がVTRで登場。太平洋横断に挑戦し海難事故の経験がある辛坊氏は「なぜ26人を救えなかったのか、それが議論から抜け落ちている。」と強調。
「すぐに救助に行けないような状況で、水温がひと桁では、「救命いかだ」がないとまず助からない。観光船には救命いかだが絶対に要るはずなのに、義務づけられていなかったし、搭載もしてなかった。それが最大の落ち度。自分があの観光船にもし乗っていたらと考える。冷たい海に浸かりながら助けてもらえると信じていた。その26人の気持ちが痛いほどわかる。全員死ななくても済む方法はあったはず。救命いかださえ積んでいれば誰も死んでないはず。26人は、助けられたと信じている。」
これを受けて門田隆将氏(作家・ジャーナリスト)が言う。「犠牲者を生まない最後のチャンスは3日前の船舶検査だった。水温2度や3度の海水は飛び込んだ瞬間に心臓が止まるぐらいの温度で10分以上生存するのは無理。冷たい海へ行くのに何で救命いかだも備えなくていいような法律なのか。これは大きな問題で、不備。起こるべくして起こった悲劇だ。」
医師である丸田氏が補足する。「あの水温だと20分以内におそらく失神するし、命はおそらく1時間から1時間半しか持たない。助けに行くことができない前提で、ボートを積まなきゃいけないのに、そのことも決まっていなかった事実がある。」
ここで番組議長・黒木千晶アナが報告。国土交通省では船から落下せずに避難できるスライダー付きの「救命いかだ」を新たに開発し、寒冷地を航行する小型旅客船への搭載を義務付ける方針を固めたという。それを聞いた門田氏は「遅い」と嘆く。
須田慎一郎氏(経済ジャーナリスト)が指摘する。「利用者にはこの業者が安全か安全じゃないかはわからない。安全性をチェックしなきゃならない。国交省北海道運輸局の責任は極めて重要。去年から座礁事故を起こし、その都度改善指導をやっていたのに、なぜ放置されてしまったのか。運行会社の経営体質の問題や船長の技術などもあるが、それでも運行させてしまった監督官庁の責任は極めて大きい。」
大野氏が新たな視点を持ち出す。「数年前にスキーのツアーバスでも痛ましい事故があった。新しい業者が参入できる規制緩和が行われた。規制緩和は大事だと言われるが、安全に関して過剰な規制緩和が行われたことが一つの原因になっているんじゃないか。」
門田氏も同調する。「規制緩和はあらゆる面で重要だが、生命と安全に関わるところは規制緩和しちゃいけない。安全をないがしろにし、命を軽視するやり方は、絶対に止めなければ。」
これを受けて須田氏が論じる。「安全性の部分は確かにコストがかかる。それに対するリターンが全くないから、業者サイドがカットしたがる。行政の責任としてカットしないように、安全性のところはむしろお金かけるぐらいのことをやってほしい。」
議論から、「救命いかだ」を積んでいなかったことの大きさがよくわかった。救える命があったかもしれないと思うとますます痛ましい。そして救命いかだが義務化されていなかったことを含めて、行政の責任も見えてきた。私たちに旅先での事業者の安全性をチェックするのは難しいからこそ、この事故を機に検討される新たなルールに期待したい。
【文:境治】
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