【ミヤネ屋・蓬莱さんのコラム】最終回!求められるオールドメディアの気象キャスター、そして蓬莱さんが目指す気象キャスターとは

2025.03.25

このコラムを初めておよそ5年。今回で最終回です!
何を書こうか考えている間に3月も後半。
番組で伝えきれないことを軸に多岐にわたる内容で書いてきました。
最後は気象キャスター論と自分の今後の話しをしたいと思います!

気象キャスターの仕事をして早15年!

 2011年3月28日から気象キャスターを始めて15年目になりました。最初の頃のインタビューで「目標は?」と聞かれ、「この道を30年続けること」と答えていました。15年目はようやく道の真ん中まできたことになります。長いような…あっという間のような…、とはいえ季節を14回経験しただけで、まだまだ分からないことだらけなのが正直な所です。この仕事が向いているのかどうか迷うこともありますが、これだけ続けられるということは、今まで続かなかった他のことに比べると、これは向いているのかもしれないと、最近になってようやく感じられるようになりました。
 あすの天気をイラストで描くスケッチ予報も気づけば15年目!イベントや中継先で視聴者のみなさんに会うと「子供の頃から見てました」や「スケッチ予報が始まった時はまだ産まれてなかったです」という風に言われることが増えました。不思議な感覚です。そりゃそうか、15年だもんなと。日々の違う空を毎日伝えていたら、気づいたら15年も経っていました。

天気予報って伝える人によって違う

 天気予報は様々なメディアで伝えられていますが、予報はすべて同じだと思っている人がいるかもしれません。実は、そんなことありません。
天気予報は、内容も伝え方も人によって変わってきます。
ただし、警報などの防災情報、台風進路予想などは気象庁の予報に統一するというルールがあります。
 気象予報士という国家資格は、天気図などの資料を読み解き、天気予報をする技術がある人を認めるもので、人の命や生活がかかっている情報を扱います。アナウンサーが読む原稿やネット記事なんかでも誰かしら気象予報士が書いています。
個々の気象予報士は、データを気象庁や自分が契約している気象会社からもらいます。
最近では、海外のデータもインターネットで簡単に手に入るようになりました。気象会社によっては、独自の観測やコンピュータシミュレーションを使用したり、海外のコンピュータが予想した日本の天気を独自の予報に組み込んだりもしています。

 天気予報は、伝える気象予報士や気象会社、テレビ局によって微妙に違います。
 要は、気象予報士というのは料理人だと思うんです。
気象庁や気象会社からの天気図をはじめとする情報は、いわば食材です。それらをどう調理するかは、解析する気象予報士次第です。食べやすいのか、食べにくいのか。味付けがどの程度されているのか、素材の味を活かしたシンプルにするのか。NHKは素材の味を活かしたシンプルな気象庁予報に従っています。民放はけっこう味付けがそれぞれ変わってきます。
 気象情報という料理は、温かいうちに食べてもらわないといけません。消費期限もあります。そのあたりも天気を伝える側としては気にしているんですよ。

AI時代の天気予報

 ここ数年、AIが急速に発達してきて、天気予報もAIに任せる会社が出てきています。気象予報士という目利きの料理人がいなくても、自動で食材から料理を作ってくれるのです。
 気象予報士の仕事は将来なくなるのではないかという話しをする人もいます。実際、どうなんでしょうか?
技術のある気象予報士は、観測データから予想された天気図やコンピュータの計算結果をそのまま見るだけではなく、コンピュータがあえて外れるパターンなどブレ幅も考慮し、伝え方を工夫することがあります。社会の状況も見ながら、人が欲しい情報を立たせて伝えることもします。例えば、桜の季節や大型連休の天気、イベントがある日のピンポイントの場所と時間の天気を、伝える内容に与えられた時間内で入れ込むことをします。AI予報は、人々のいま欲しいと思う情報を空気を読んでいかに伝えらえるかが、今後の課題かもしれません。天気は読めても空気は読めない、それがいまのAI天気予報の限界です。

 では、気象キャスターにとってAIは敵なのかというと、今のところはまだそんなことはないと思います。むしろ、調べものをする時のパートナーに近いかもしれません。ただ2025年時点では、AIはネットに転がっている変な情報を引っ張ってくることがあるので、まだ情報の信頼性に乏しい部分もありますが、今後は精度が高くなってくると、サポート役としてはありがたい存在になり得ると思います。

求められるオールドメディアの気象キャスター

 天気予報を何で見ますかというアンケートでは、まだ1位はテレビやラジオです。天気予報に関しては、まだオールドメディアが優勢です。
僕のいるテレビの世界では、どういう気象キャスターが求められているか?
まず、この人から天気の情報を聞きたいと視聴者に思ってもらえる存在であるかどうか。防災情報をしっかり伝えられるかどうかが最重要です。
 天気予報は「生もの」なので鮮度が重要、生放送で伝えます。その生放送では予定外のことが次々と起こります。それに対応できるかどうかも求められます。例えば、速報ニュースが入るかどうかなどで予定時間を直前で伸ばしたり短くしたり調整しなければなりません。

 気象キャスターの僕にとって雇用主はテレビ局ですが、番組の求められることばかりをして、いなくなった気象キャスターを何人も見てきました。
例えば、時間がかかっても伝えなければならない情報があるにも関わらず、時間の都合で省かざるをえないとか、視聴率をとることばかりを求められ、内容が希薄になり、視聴者が結果はなれてしまい、交代させられるなどあります。
 オールドメディアで気象キャスターをやるにあたって最も大切なことは、視聴者がきょうの天気予報という料理を、いかにおいしく、食べやすく、いただいてもらうかです。時に、番組側と相談して通常4分の天気コーナーを非常時に5分にしてもらうとか、誇張表現を使いたがる番組スタッフにブレーキをかけることをしないといけません。「間違いでなければ誤解される表現でもいい。嘘でなければ大げさに表現してもいい」という考えの人も中にはいます。僕は「なんでも最強寒波を使いたがる」ことが嫌いです。

 ちょっと話がそれましたが、僕が日々の天気コーナーで意識しているのが、視聴者への共感「そうそう」という情報、勉強になる「へぇ〜」という情報、「なるほど」というわかりやすい解説を入れることです。
ただの天気予報ではなく、季節の情報、生活情報も時に入れます。

 「この気象キャスター、専門用語をいろいろ使ってすごいな」と思われるよりも「この気象キャスターの言っていること、自分でもできそうだな」と思われるくらいのわかりやすい天気予報を目指しています。僕の天気予報を聞いた人がそのまま他の誰かに伝えられる、それくらい分かりやすいのが理想です。
「蓬莱さんがこう言ってたよ」が一番の誉め言葉です。その分、予報が外れた時のダメージも大きいので責任重大です。。。

これからの気象キャスター

 AIをうまくパートナーにできる気象キャスター、雇用主とそのお客(視聴者)に信頼される気象キャスター、マスメディアでの気象キャスターなら「この人から聞きたい」と思わせる人でないと生き残れない時代です。
 落語にもちょっと似ている部分があり、例えば「時うどん」というはなしでも噺家によって違いが出ます。入門したての人と師匠クラスでは全然違います。ストーリーをネットで検索しても、笑い話が全然笑えません。落語は「その人から聞く」からいいんですよね。

自分が目指す気象キャスターとは

 気象キャスターを始めるまでにいろんな挫折を経験してきました。部活の柔道、趣味の音楽、英会話、政治経済の勉強、俳優、タレント活動…。
しかし、いま気象キャスターを続けていると、今までの挫折や経験が活かされ、諦めたはずのことが気象キャスターになったことで、また挑戦する機会が与えられたりもしています。
僕は、まっすぐに気象の道に来た人間ではありません。だからこそ、他の気象キャスターがやらないようなことにも積極的に挑戦していこうと思っています。
 気象の勉強をこれからもおろそかにせず、本業の気象キャスターとしての木の幹は太くしていく、と同時に、チャンスが与えられたら、木の枝も伸ばしていく、気づいたら「この木何の木、不思議な木」になりたいと思っています。
 
 異常気象多発時代、気候変動対策が進む時代、気象の専門家としても、まだまだやるべきことがたくさんあります。
ここから数年以内にも、気象警報の仕組みが変わったり、台風進路予想の表示が変わったりもしますし、2030年からは、新しい気象衛星が運用され、それに伴い気象情報がよりレベルアップされ…
と、まあ、そんなことをしているうちに気づいたらこの道30年…、それが理想ですね。

 さて、このコラムの最終回、天気を伝える裏側の部分を少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
約5年、とっちらかった文章でお付き合いいただきありがとうございました。
お天気ライブほうらい屋に関わったすべてのスタッフの皆様にもこの場を借りてお礼申し上げます。
ありがとうございました!
そして…
引き続き、読売テレビの気象コーナーをごひいきによろしくお願いします!
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