紆余曲折を経て今まさに旬を迎えつつある松竹芸能のホープ「ハノーバー」
2022.08.10
7月に行われた「ABCお笑いグランプリ」で決勝に進出し注目度が一気に上昇したお笑いコンビ「ハノーバー」。井口バツ丸さん(29)と良元カルビさん(29)がコントに、漫才に、才能を発揮しています。松竹芸能に所属するまで紆余曲折を経た二人でもありますが、その道のりに影響を与えた人物、そして見据える今後とは。
―先月「ABCお笑いグランプリ」で決勝に進出。東京からも若手注目株が出場する中、認知度が一気に高まったのでは?
良元:ありがたいことに「ABC―」の後はライブに呼ばれる数が一気に増えました。ただ、僕らはビックリするほど人気がないんです(笑)。なので、せっかくゲストで呼んでもらっても集客が伴ってないのが何とも申し訳ないことではあるんですけど…。
井口:…これがね、本当に人気がないんです(笑)。ただ、認知してもらったのはうれしいことですし、それと同時により一層負けられないし、変な姿も見せられない。そうやって尻に火がついているところも良い意味で出てきたと感じています。
―もともと二人の接点は?
良元:同じ中学校で同学年。それが最初の接点でした。その時から仲良くはしていたんですけど、僕が少しだけ吉本興業のNSC(大阪校38期生)に入ったんです。ただ、2カ月くらいで辞めてしまって、これからどうしようかと。ちょうどそのタイミングで東京で働いていた井口も仕事を辞めて大阪に戻ってきたんです。
井口:相方はNSCにも行くくらいだし、もともとお笑いは好きだったんです。でも、僕は好きではなくて興味もなかった。だからこそ、東京に行って普通に仕事をしてたんですけど、コンビを組もうと誘われまして。
僕はそんなトーンなので断っていたんですけど、説得するために僕の自宅まで相方が来たんです。
そこで出てきたのがウチの母親でして。というのは、母親はNSCのタレントコース1期生なんです。芸人コースの方には言わずもがな「ダウンタウン」さんや「トミーズ」さん、「ハイヒール」さんらがいらっしゃるんですけど、同じ時期にコースは違うんですけどウチの母親もこの世界を志してたんです。
NSCを出てから歌謡ショーに出たり、新喜劇に出たりしていたんですけど、その母親が自分の息子がこの世界に誘われているのを見て「あんたみたいな人間は芸人しかやることないんやから、やりなさい」と強烈にプッシュしてきたんです。
―珍しいパターンですね。逆というか、多くの場合は「厳しい世界だからやめておきなさい」というのかなと…。
井口:確かにレアケースでしょうね(笑)。ただ、母親としたら、自分もその道を歩んでいたものの数年でお笑いの世界を出てしまったので、息子にその世界で輝いてほしいという思いもあったようでして。
シングルマザーで僕が1歳の時に離婚をしているので、そこからは一人で育ててくれたんですけど、よく考えたら小さな頃から母親が出ているビデオとか、未知やすえさんとの交換日記を見せられていたなと(笑)。実は、かなりの英才教育を受けていたんだなと。
そんなプッシュもあってとにかく組むことになったんですけど、それでも僕としてはいつ辞めるかも分からないくらいでのスタートだったので、特に事務所には入らず、フリーという形でコンビを始めることにしたんです。
良元:最初はフリーでインディーズライブに出てまして、1年ほど経った頃に、今は潰れてしまったんですけど「UMEDA芸能」という事務所に所属することになりまして。そこで3年ほど活動して、また縁があって松竹芸能に入ることになりました。松竹に入って今で2年ちょっとというところです。芸歴としては6~7年なんですけど、いろいろな経験をさせてもらってきたなとは感じています。
―これまで活動してきた中で、指針となっている先輩の言葉や憧れる“背中”などはありましたか?
良元:去年から東京のライブにも呼んでもらえるようになりまして。そこでピン芸人のサツマカワRPGさんや「ストレッチーズ」のお二人といった、まさに今注目の若手として売れだしているという方々とご一緒させてもらう機会がグッと増えたんです。
そういう方々とご一緒すると、仕事はもちろん、ネタ作りや遊びに至るまでいかに力を抜かずにやってらっしゃるか。それを痛感しました。
僕らももちろんやっているつもりではあったんですけど、まだまだ足りないと。それを言葉ではなく空気から学んだというか。この感覚はものすごく大きかったですね。
実際、そういう空気を吸いだしてから賞レースでも結果が出るようになってきましたし、ありがたい流れをいただいているなと本当に思います。
井口:僕は共通の知人である芸人さんを通じて、今年4月頃からスピードワゴンの小沢さんにお世話になるようになりまして。食事に連れて行ってもらったり、いろいろなお話をうかがったりしているんです。
小沢さんはとにかくカッコいいんです。普段のたたずまいも、お酒を飲んでいても、常にカッコいい。そこをストレートに尋ねたこともあるんですけど、そこでおっしゃったのが「オレは自分を“主人公”だと思っているから」ということだったんです。
芸人って舞台に立って笑いを取るカッコいい職業だから、常にカッコいいと思われないといけない。その空気というのは、まず自分が自分をカッコいいと思うところから出るものだと思うし、それは常に自分を主人公だと思うところから始まると。
この考え方を当てはめると、確かにいろいろな振る舞いや物の見方がカッコよくなっていくと思いますし、そういった心構えみたいなものはなかなか教えてもらわないと得られない。本当にありがたいお話だと思っています。
―小沢さんとの出会いもそうですし、去年あたりからいろいろと“流れ”が来ている感じがしますよね。
良元:本当にそれは僕らも感じていることで、ここで頑張らないといけないなと。まずは「キングオブコント」優勝。これはなんとか目指したいと思いますし、やっぱり僕らはネタで結果を残す。これが大きなポイントだろうなと思っています。そして、いつかは自分たちのラジオ番組をやりたい。それも強く願っています。
―今、井口さんのお母さんは何かアドバイスをされたりはしてないんでしょうか?
井口:母親はエステの会社を立ち上げたり、食品関係をやったりとか、いろいろな仕事を経て、今はまわりまわって鳥取に一軒家を買ってブロッコリー農家をやっているんです。
自然に触れることで今はかなりスピリチュアルなモードになってるみたいで「鳥取から感じます。大阪のあなたたちの良い波動を」みたいなLINEがたまに来まして。気にかけてくれることはありがたいんですけど、そういったLINEはひとまず既読スルーしています(笑)。
■ハノーバー
1993年3月18日生まれの井口バツ丸(いぐち・ばつまる)と92年12月11日生まれの良元カルビが2016年にコンビ結成。ともに大阪府出身。漫才とコント、両方で高いレベルのネタを展開する。7月に行われた「ABCお笑いグランプリ」で決勝に進出。井口の母親は吉本興業のNSCタレントコース1期生。井口、良元ともに既婚。8月13日に大阪・DAIHATSU心斎橋角座で行われるイベント「お盆でぼんぼんネクストスター」にも出演する。
執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)
1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
―先月「ABCお笑いグランプリ」で決勝に進出。東京からも若手注目株が出場する中、認知度が一気に高まったのでは?
良元:ありがたいことに「ABC―」の後はライブに呼ばれる数が一気に増えました。ただ、僕らはビックリするほど人気がないんです(笑)。なので、せっかくゲストで呼んでもらっても集客が伴ってないのが何とも申し訳ないことではあるんですけど…。
井口:…これがね、本当に人気がないんです(笑)。ただ、認知してもらったのはうれしいことですし、それと同時により一層負けられないし、変な姿も見せられない。そうやって尻に火がついているところも良い意味で出てきたと感じています。
―もともと二人の接点は?
良元:同じ中学校で同学年。それが最初の接点でした。その時から仲良くはしていたんですけど、僕が少しだけ吉本興業のNSC(大阪校38期生)に入ったんです。ただ、2カ月くらいで辞めてしまって、これからどうしようかと。ちょうどそのタイミングで東京で働いていた井口も仕事を辞めて大阪に戻ってきたんです。
井口:相方はNSCにも行くくらいだし、もともとお笑いは好きだったんです。でも、僕は好きではなくて興味もなかった。だからこそ、東京に行って普通に仕事をしてたんですけど、コンビを組もうと誘われまして。
僕はそんなトーンなので断っていたんですけど、説得するために僕の自宅まで相方が来たんです。
そこで出てきたのがウチの母親でして。というのは、母親はNSCのタレントコース1期生なんです。芸人コースの方には言わずもがな「ダウンタウン」さんや「トミーズ」さん、「ハイヒール」さんらがいらっしゃるんですけど、同じ時期にコースは違うんですけどウチの母親もこの世界を志してたんです。
NSCを出てから歌謡ショーに出たり、新喜劇に出たりしていたんですけど、その母親が自分の息子がこの世界に誘われているのを見て「あんたみたいな人間は芸人しかやることないんやから、やりなさい」と強烈にプッシュしてきたんです。
―珍しいパターンですね。逆というか、多くの場合は「厳しい世界だからやめておきなさい」というのかなと…。
井口:確かにレアケースでしょうね(笑)。ただ、母親としたら、自分もその道を歩んでいたものの数年でお笑いの世界を出てしまったので、息子にその世界で輝いてほしいという思いもあったようでして。
シングルマザーで僕が1歳の時に離婚をしているので、そこからは一人で育ててくれたんですけど、よく考えたら小さな頃から母親が出ているビデオとか、未知やすえさんとの交換日記を見せられていたなと(笑)。実は、かなりの英才教育を受けていたんだなと。
そんなプッシュもあってとにかく組むことになったんですけど、それでも僕としてはいつ辞めるかも分からないくらいでのスタートだったので、特に事務所には入らず、フリーという形でコンビを始めることにしたんです。
良元:最初はフリーでインディーズライブに出てまして、1年ほど経った頃に、今は潰れてしまったんですけど「UMEDA芸能」という事務所に所属することになりまして。そこで3年ほど活動して、また縁があって松竹芸能に入ることになりました。松竹に入って今で2年ちょっとというところです。芸歴としては6~7年なんですけど、いろいろな経験をさせてもらってきたなとは感じています。
―これまで活動してきた中で、指針となっている先輩の言葉や憧れる“背中”などはありましたか?
良元:去年から東京のライブにも呼んでもらえるようになりまして。そこでピン芸人のサツマカワRPGさんや「ストレッチーズ」のお二人といった、まさに今注目の若手として売れだしているという方々とご一緒させてもらう機会がグッと増えたんです。
そういう方々とご一緒すると、仕事はもちろん、ネタ作りや遊びに至るまでいかに力を抜かずにやってらっしゃるか。それを痛感しました。
僕らももちろんやっているつもりではあったんですけど、まだまだ足りないと。それを言葉ではなく空気から学んだというか。この感覚はものすごく大きかったですね。
実際、そういう空気を吸いだしてから賞レースでも結果が出るようになってきましたし、ありがたい流れをいただいているなと本当に思います。
井口:僕は共通の知人である芸人さんを通じて、今年4月頃からスピードワゴンの小沢さんにお世話になるようになりまして。食事に連れて行ってもらったり、いろいろなお話をうかがったりしているんです。
小沢さんはとにかくカッコいいんです。普段のたたずまいも、お酒を飲んでいても、常にカッコいい。そこをストレートに尋ねたこともあるんですけど、そこでおっしゃったのが「オレは自分を“主人公”だと思っているから」ということだったんです。
芸人って舞台に立って笑いを取るカッコいい職業だから、常にカッコいいと思われないといけない。その空気というのは、まず自分が自分をカッコいいと思うところから出るものだと思うし、それは常に自分を主人公だと思うところから始まると。
この考え方を当てはめると、確かにいろいろな振る舞いや物の見方がカッコよくなっていくと思いますし、そういった心構えみたいなものはなかなか教えてもらわないと得られない。本当にありがたいお話だと思っています。
―小沢さんとの出会いもそうですし、去年あたりからいろいろと“流れ”が来ている感じがしますよね。
良元:本当にそれは僕らも感じていることで、ここで頑張らないといけないなと。まずは「キングオブコント」優勝。これはなんとか目指したいと思いますし、やっぱり僕らはネタで結果を残す。これが大きなポイントだろうなと思っています。そして、いつかは自分たちのラジオ番組をやりたい。それも強く願っています。
―今、井口さんのお母さんは何かアドバイスをされたりはしてないんでしょうか?
井口:母親はエステの会社を立ち上げたり、食品関係をやったりとか、いろいろな仕事を経て、今はまわりまわって鳥取に一軒家を買ってブロッコリー農家をやっているんです。
自然に触れることで今はかなりスピリチュアルなモードになってるみたいで「鳥取から感じます。大阪のあなたたちの良い波動を」みたいなLINEがたまに来まして。気にかけてくれることはありがたいんですけど、そういったLINEはひとまず既読スルーしています(笑)。
■ハノーバー
1993年3月18日生まれの井口バツ丸(いぐち・ばつまる)と92年12月11日生まれの良元カルビが2016年にコンビ結成。ともに大阪府出身。漫才とコント、両方で高いレベルのネタを展開する。7月に行われた「ABCお笑いグランプリ」で決勝に進出。井口の母親は吉本興業のNSCタレントコース1期生。井口、良元ともに既婚。8月13日に大阪・DAIHATSU心斎橋角座で行われるイベント「お盆でぼんぼんネクストスター」にも出演する。
執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)
1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
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