祝60周年!ギネスブックが認めない桃屋『のり平アニメCM』の偉業をざっくりと振り返る
2018.11.15
誰もが観たことのある、なつかしいテレビCMが今年復刻され、久しぶりに放送されたのをご覧になった方も多いだろう。桃屋の『江戸むらさき ごはんですよ!』。丸メガネを鼻の頭までちょこんとズラしたキャラクターでおなじみ、アニメの三木のり平さんが登場するテレビCMだ。
なんと、のり平アニメのテレビCMが最初に放送されたのは1958年、今から60年も前のこと。『ごはんですよ!』だけでなく、『花らっきょう』や『味付メンマ』『キムチの素』など、同社の様々な商品のCMに登場。じつに60年間で340本もつくられた、おそらく世界でも類を見ない、ギネス級の長寿CMなのだ。
なんと、のり平アニメのテレビCMが最初に放送されたのは1958年、今から60年も前のこと。『ごはんですよ!』だけでなく、『花らっきょう』や『味付メンマ』『キムチの素』など、同社の様々な商品のCMに登場。じつに60年間で340本もつくられた、おそらく世界でも類を見ない、ギネス級の長寿CMなのだ。
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そこで気になるテレビCMにもスポットを当てる『読みテレ編集部』、今回は放送開始60周年を迎えた、のり平アニメCMに迫る。なぜ、こんなにも愛され、長く続いたのか。教えてくれたのは同社営業企画室・森本豊彦さん。
「のり平アニメCMが最初に放送された1958年は、ドラマをはじめ、まだほとんどの番組が生放送だった時代です。もちろん、テレビCMも“生コマーシャル”が当たり前。それだけに当時のテレビCMは、『スタジオで商品を説明するだけの退屈なもの』というイメージが強く、視聴者の方からは“トイレタイム”などと呼ばれていました。そこで、『観ている方を飽きさせない、ドラマにも負けない、おもしろいテレビCMをつくろう』という意気込みで制作を始めたのが、のり平アニメCMでした」
なぜ、のり平さんだったのだろう?
「のり平さんとのおつき合いは、テレビCMを始める前の新聞広告時代にさかのぼります。当時、弊社は新聞に、映画俳優や作家の方などから弊社の商品を推奨するコメントをいただく、“突き出し広告”の連載をしており、最初はそのお一人として、のり平さんにもコメントをお願いしました。すると、のり平さんは『私がとやかく言うより、絵でも描きましょう』と、ご自分の似顔絵をさらさらと描いて、そこにシャレたキャッチコピーを添えてくださった。それが読者に好評でしたので、テレビCMをつくるにあたって、『あの似顔絵をアニメキャラクターに』ということになりました。そこでナレーションものり平さんにお願いすることになったのです。また、のり平さんの『のり』と海苔佃煮の『海苔』のゴロが合ったこと、のり平さんの庶民的なキャラクターが弊社の商品が持つ庶民的なイメージとピッタリ合っていたことものり平さんにお願いした理由でした」
「のり平アニメCMが最初に放送された1958年は、ドラマをはじめ、まだほとんどの番組が生放送だった時代です。もちろん、テレビCMも“生コマーシャル”が当たり前。それだけに当時のテレビCMは、『スタジオで商品を説明するだけの退屈なもの』というイメージが強く、視聴者の方からは“トイレタイム”などと呼ばれていました。そこで、『観ている方を飽きさせない、ドラマにも負けない、おもしろいテレビCMをつくろう』という意気込みで制作を始めたのが、のり平アニメCMでした」
なぜ、のり平さんだったのだろう?
「のり平さんとのおつき合いは、テレビCMを始める前の新聞広告時代にさかのぼります。当時、弊社は新聞に、映画俳優や作家の方などから弊社の商品を推奨するコメントをいただく、“突き出し広告”の連載をしており、最初はそのお一人として、のり平さんにもコメントをお願いしました。すると、のり平さんは『私がとやかく言うより、絵でも描きましょう』と、ご自分の似顔絵をさらさらと描いて、そこにシャレたキャッチコピーを添えてくださった。それが読者に好評でしたので、テレビCMをつくるにあたって、『あの似顔絵をアニメキャラクターに』ということになりました。そこでナレーションものり平さんにお願いすることになったのです。また、のり平さんの『のり』と海苔佃煮の『海苔』のゴロが合ったこと、のり平さんの庶民的なキャラクターが弊社の商品が持つ庶民的なイメージとピッタリ合っていたことものり平さんにお願いした理由でした」
昭和31年 読売新聞の突き出し広告 「一筆漫歩」(三木のり平氏が最初に書いたイラストを使用)
こうしてパロディや社会風刺のきいた名作アニメCMが次々と誕生していく。しかし、「ドラマにも負けないテレビCMを」と高い志を持った現場だっただけに、苦労は尽きなかったようだ。
「アニメの制作と言えば、まずアニメーションがあって、それに合わせて声を吹き込む、いわゆる“アフレコ”という作業を連想する方が多いと思いますが、のり平アニメCMは逆で、のり平さんが吹き込んだ声に合わせてアニメをつくっていきます。ですから、スタッフが考えていったCM案に、のり平さんからOKが出ないと、作業がそこでストップしてしまうのです」
その代表が、1981年から放送された人気作のひとつ、『ごはんですよ! 川柳篇』だ。
「これは30秒の中に5本の川柳を入れるCMだったのですが、制作スタッフが時間をかけ、充分に吟味した川柳だったにもかかわらず、声を収録する時になって、のり平さんから『つまらない』と言われてしまいました(苦笑)。しかも、のり平さんがその場で腕を組み、『う~ん』と、新しい川柳を考え始めたのです。ところが、なかなか良い川柳が浮かばず、結局はその場の全員で考えることに。スタジオの予約時間はどんどん過ぎていきますし、本当に当時のスタッフは肝を冷やしたようです」
そんな経緯で誕生したのが、『午前様 角といっしょに 茶漬け出し』『長電話 聞こえるように 邪魔をする』などの川柳だ。誰がどの川柳をつくったかは記録がないそうだが、今でも多くの人の記憶に残る名作だろう。
このように「少しでもおもしろいものを」と妥協せずにつくり続けられた、のり平アニメCM。それが長きにわたって愛された理由のひとつであることは間違いないだろう。
「それにアニメだったことで、キャラクターを変幻自在に変えられたことも大きかったと思います。のり平さんご自身も『CMに実際に顔を出すと役者のイメージが固定してしまうが、アニメならその心配がないし、自由な発想で演じられる』と話されていましたが、女装はもちろん、歴史上の人物だったり、動物だったり、本当にのり平さんにはいろいろなものになっていただきましたから(笑)」
のり平さんは病気のため、1999年に亡くなられたが、その後は長男の小林のり一(のりかず)さんがナレーションを引き継ぎ、2012年まで新作がつくられた。ひとつのキャラクターを親子二代で演じ、60年も続いたテレビCMなど、おそらく他にないはずだ。
「そこで1995年に長寿CMとしてギネスブックに登録申請をしたのですが、『過去に“もっとも長寿のCMはどれか”という調査を実施したことがないので、御社のものが最長かどうか証明する立場にはありません』と丁重にお断りされてしまいました。ですから、弊社では“ギネス級”と言っています(笑)」
60年間、常にユーモアの視点で日本を見続け、時代とともにアップデートをくり返してきたのり平アニメCMは、今でもその多くを桃屋の公式ホームページ内の『のり平アニメCMギャラリー』で観ることができる。その内容の変遷は、まさに日本の60年の歩みそのものなのだ。
【文:井出 尚志】
「アニメの制作と言えば、まずアニメーションがあって、それに合わせて声を吹き込む、いわゆる“アフレコ”という作業を連想する方が多いと思いますが、のり平アニメCMは逆で、のり平さんが吹き込んだ声に合わせてアニメをつくっていきます。ですから、スタッフが考えていったCM案に、のり平さんからOKが出ないと、作業がそこでストップしてしまうのです」
その代表が、1981年から放送された人気作のひとつ、『ごはんですよ! 川柳篇』だ。
「これは30秒の中に5本の川柳を入れるCMだったのですが、制作スタッフが時間をかけ、充分に吟味した川柳だったにもかかわらず、声を収録する時になって、のり平さんから『つまらない』と言われてしまいました(苦笑)。しかも、のり平さんがその場で腕を組み、『う~ん』と、新しい川柳を考え始めたのです。ところが、なかなか良い川柳が浮かばず、結局はその場の全員で考えることに。スタジオの予約時間はどんどん過ぎていきますし、本当に当時のスタッフは肝を冷やしたようです」
そんな経緯で誕生したのが、『午前様 角といっしょに 茶漬け出し』『長電話 聞こえるように 邪魔をする』などの川柳だ。誰がどの川柳をつくったかは記録がないそうだが、今でも多くの人の記憶に残る名作だろう。
このように「少しでもおもしろいものを」と妥協せずにつくり続けられた、のり平アニメCM。それが長きにわたって愛された理由のひとつであることは間違いないだろう。
「それにアニメだったことで、キャラクターを変幻自在に変えられたことも大きかったと思います。のり平さんご自身も『CMに実際に顔を出すと役者のイメージが固定してしまうが、アニメならその心配がないし、自由な発想で演じられる』と話されていましたが、女装はもちろん、歴史上の人物だったり、動物だったり、本当にのり平さんにはいろいろなものになっていただきましたから(笑)」
のり平さんは病気のため、1999年に亡くなられたが、その後は長男の小林のり一(のりかず)さんがナレーションを引き継ぎ、2012年まで新作がつくられた。ひとつのキャラクターを親子二代で演じ、60年も続いたテレビCMなど、おそらく他にないはずだ。
「そこで1995年に長寿CMとしてギネスブックに登録申請をしたのですが、『過去に“もっとも長寿のCMはどれか”という調査を実施したことがないので、御社のものが最長かどうか証明する立場にはありません』と丁重にお断りされてしまいました。ですから、弊社では“ギネス級”と言っています(笑)」
60年間、常にユーモアの視点で日本を見続け、時代とともにアップデートをくり返してきたのり平アニメCMは、今でもその多くを桃屋の公式ホームページ内の『のり平アニメCMギャラリー』で観ることができる。その内容の変遷は、まさに日本の60年の歩みそのものなのだ。
【文:井出 尚志】
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