アニメ『犬夜叉』が世界で今もなお人気の理由
2018.07.27
世界と繋がるテレビの話「世界とコネクトテレビ論」の第3回目の題材はアニメ『犬夜叉』です。日本を代表するアニメのひとつとして、世界各国で今もなお支持され、ファン層を広げています。
『犬夜叉』をはじめ、『名探偵コナン』や『シティーハンター』など数々のヒットアニメを手掛け続けている読売テレビ編成局アニメーション部エグゼクティブプロデューサー・諏訪道彦(すわ・みちひこ)氏と、海外セールス担当の読売テレビエンタープライズ東京支社コンテンツ営業部・鈴木紀子(すずき・のりこ)氏に協力を得て、世界展開の現状とその理由を探ります。
『犬夜叉』をはじめ、『名探偵コナン』や『シティーハンター』など数々のヒットアニメを手掛け続けている読売テレビ編成局アニメーション部エグゼクティブプロデューサー・諏訪道彦(すわ・みちひこ)氏と、海外セールス担当の読売テレビエンタープライズ東京支社コンテンツ営業部・鈴木紀子(すずき・のりこ)氏に協力を得て、世界展開の現状とその理由を探ります。
白人ラッパーPost Maloneの左足に「日暮かごめ」のタトゥー
お二人に『犬夜叉』の世界展開をお聞きしたいと思ったきっかけは、実はPost Malone(ポスト・マローン)の話題からでした。アメリカ生まれの売れっ子白人ラッパー、今月開催の「フジロックフェスティバル」にも出演予定のPost MaloneがTwitter上で左足にアニメ『犬夜叉』のヒロイン「日暮かごめ」のタトゥーを入れていることを自ら明かしました。
— Beerbongs & Bentleys (@PostMalone) April 3, 2017
ポスト・マローンのTwitterより
日ごろから海外取材などを通じて様々な国籍の方が日本のアニメ愛を語ってくれる場面は多く、80年~90年代生まれの層に集中しています。日本のアニメが大量に海外で放送され始めた時期に出会った彼ら彼女らがファンであり続けていることが特徴のひとつにあります。セーラー服姿のキャラクター「かごめちゃん」の虜になっている様子が伺える90年代半ば生まれのPost Maloneに至ってもそんな背景があるのではと興味を持ちました。
一方、とりわけ「妖怪」を題材に、舞台は戦国時代という「和」のテイストが色濃いことが「海外では理解しにくい作品なのではないか」という疑問もありました。そこでまずは『犬夜叉』は他の作品と何が違うのか、諏訪氏にお聞きしました。
「『犬夜叉』は2000年10月に地上波で放送スタートした当初、開始早々から好調でしたが、実は『犬夜叉』は原作が始まってからアニメ化するまでに4年の時間を要しました。通常、原作の単行本が6~8巻が発行されるあたりでアニメ化されるケースが多いのですが、『犬夜叉』がアニメ化された2000年時点では漫画は既に18巻発売のタイミングでした。どうしてかと言うと、原作者の高橋留美子先生の了解を得ながら、アニメでは犬夜叉の一行が「四魂の玉」のかけらを探しに旅に出るまでの目的をより明確にした内容をシナリオ段階から約1年の放送分(44本)に落とし込むことを計画したからです。結果、それが世界のどの国の方でも理解しやすい作品になっている理由のひとつかもしれません」
一方、とりわけ「妖怪」を題材に、舞台は戦国時代という「和」のテイストが色濃いことが「海外では理解しにくい作品なのではないか」という疑問もありました。そこでまずは『犬夜叉』は他の作品と何が違うのか、諏訪氏にお聞きしました。
「『犬夜叉』は2000年10月に地上波で放送スタートした当初、開始早々から好調でしたが、実は『犬夜叉』は原作が始まってからアニメ化するまでに4年の時間を要しました。通常、原作の単行本が6~8巻が発行されるあたりでアニメ化されるケースが多いのですが、『犬夜叉』がアニメ化された2000年時点では漫画は既に18巻発売のタイミングでした。どうしてかと言うと、原作者の高橋留美子先生の了解を得ながら、アニメでは犬夜叉の一行が「四魂の玉」のかけらを探しに旅に出るまでの目的をより明確にした内容をシナリオ段階から約1年の放送分(44本)に落とし込むことを計画したからです。結果、それが世界のどの国の方でも理解しやすい作品になっている理由のひとつかもしれません」
読売テレビの諏訪道彦エグゼクティブプロデューサー(右)と、海外セールスを担当する読売テレビエンタープライズの鈴木紀子氏
世界でヒットしている作品に共通するポイントは「オリジナルの世界観があるストーリーと魅力的なキャラクター」です。『犬夜叉』の場合は、原作の世界観とキャラクターの魅力を最大限に引き出したアニメ化ならではのストーリー展開がそのカギとなったと言えそうです。さらに、「和」のテイストが世界でも受け入れられる理由についても諏訪氏は解説してくれました。
「『犬夜叉』の魅力は“怪しさ”。『ゲゲゲの鬼太郎』で日本の妖怪と西洋の妖怪が闘うシーンがあるのですが、“すっごくおもしろい”。東洋の妖怪は献身的だったりと、世界観が西洋とは異なるからでしょう。高橋留美子先生は妖怪作品を実は以前から描かれていて、『犬夜叉』はその集大成とも言えます。また和楽器音楽も得意とする和田薫先生に担当してもらった音楽もアニメ『犬夜叉』の世界観を膨らませてくれました」
「『犬夜叉』の魅力は“怪しさ”。『ゲゲゲの鬼太郎』で日本の妖怪と西洋の妖怪が闘うシーンがあるのですが、“すっごくおもしろい”。東洋の妖怪は献身的だったりと、世界観が西洋とは異なるからでしょう。高橋留美子先生は妖怪作品を実は以前から描かれていて、『犬夜叉』はその集大成とも言えます。また和楽器音楽も得意とする和田薫先生に担当してもらった音楽もアニメ『犬夜叉』の世界観を膨らませてくれました」
アジアでは「ラブ」、北米では「アクション」にフォーカス
世界展開されているアニメは『犬夜叉』だけに限りませんが、「放送、配信、DVD販売を通じてほぼ全世界で網羅されている数少ない日本のアニメ作品のひとつです。これまでロシア以外ではほぼ全ての地域で展開され、北米やアジア、ヨーロッパ、オセアニアなどの主な地域で放送や配信が続いています。例えば、アメリカではNetflixやHulu等、欧州でもイタリアやフランスなどで配信中、アジアではAnimax Asia等のテレビ局でも日本での放送後も何度も放送されています」と鈴木氏が教えてくれました。
アメリカでは2002年にカートゥーンネットワークの大人向けアニメ枠「アダルトスイム」で日本のアニメ作品のひとつとして『犬夜叉』も放送され、2004年にはDVD販売も開始されました。「地域からみると、テキサス育ちのPost Maloneもカートゥーンネットワークのチャンネルや家電量販店の「ベスト・バイ」などで販売されていたDVDを手にしていたのかもしれません」と鈴木氏は推測します。
アメリカでは2002年にカートゥーンネットワークの大人向けアニメ枠「アダルトスイム」で日本のアニメ作品のひとつとして『犬夜叉』も放送され、2004年にはDVD販売も開始されました。「地域からみると、テキサス育ちのPost Maloneもカートゥーンネットワークのチャンネルや家電量販店の「ベスト・バイ」などで販売されていたDVDを手にしていたのかもしれません」と鈴木氏は推測します。
鈴木氏から「展開される地域によって『犬夜叉』が刺さるポイントも異なります」という興味深い話も聞けました。同じ作品でありながらもアジアでは「ラブ」、北米では「アクション」に注目したPRポスターが作られたというのです。実際にみせてもらうと、アジアでは犬夜叉と日暮かごめとの恋愛関係、北米では犬夜叉が持っている刀「鉄砕牙」にフォーカスしたそれぞれ印象の違いがわかるものでした。これに対して諏訪氏も「『名探偵コナン』とも共通する、すれ違いのギミックが『犬夜叉』にもあります。かごめと桔梗という女子二人と犬夜叉の3人の関係性の描き方は、高橋留美子先生らしく秀逸です。ラブコメもありながら、アクション、成長物語も伴って一筋縄ではないから楽しんでもらっているのでしょう」と解説してくれました。
「犬夜叉完結編」のポスタービジュアル。アジア向け(左)は恋愛要素が強め。一方、北米向け(右)はアクション要素を強めに押し出している。
また国それぞれの事情に合わせた展開も必要です。例えば、マレーシアでは宗教上の理由から「犬」を扱う作品はご法度。それでも人気作品『犬夜叉』をどうしても展開したい、展開してもらいたいという両者の意見が一致し、「妖怪だから」という理由で『犬夜叉』は特例扱いで放送されたそうです。またアメリカ版では第一話で登場するセクシーなムカデの妖怪の身体の一部を描き直して放送されたというエピソードも聞けました。ローカライズ対応によって、それぞれの国で受け入れられている事例はまだまだありそうです。
20年近く経過しても、卒業しない理由とは
商業ベースでは展開が難しい発展途上国などにも国際交流基金プロジェクトによって『犬夜叉』が放送されていることもわかりました。この国際交流基金プロジェクトの代表する例にはドラマ『おしん』などがあります。日本のテレビ番組を通じて、日本の魅力を知ってもらおうという目的で支援されているものです。例えばマーシャル諸島共和国では一家に一台テレビがあるような家庭は少なく、『犬夜叉』のテレビ放送時間に近所の子どもたちが集まり、夢中で視聴しているそうです。窓の外から覗いて観ている子どもまでいる様子を映し出した写真は、時代や国境、環境を超えてヒットする作品であることを物語っています。
「犬夜叉」のテレビ放送に集まるマーシャル諸島の子供たち
(写真提供:在マーシャル日本国大使館)
諏訪氏は今年3月にアメリカのマサチューセッツ州ボストンで開催された日本のアニメ&マンガのファンイベント「アニメ・ボストン」のセッションに、諏訪氏と共に「犬夜叉」をプロデュースし、現在はサンライズ専務取締役・富岡秀行氏らと登壇し、変わらぬ現地の人気ぶりについても最後に話をしてくれました。
「アニメ・ボストンに限らず、世界各地で行われている日本のアニメファンイベントで『犬夜叉』のキャラクターのコスプレをされている方を多く見かけます。年齢層は幅広く、男女問わず愛されていることは嬉しいことです。初回放送から20年近く経過していますが、卒業せずに想いを持続してもらっているのは完結していることが理由のひとつにあるのかもしれません。安心して自分たちの“持ち物”として持ち続けてくれているように思います。そして、次の展開を考えたいぐらいの世界観がありますから、ボストンでもファンの方に“これからも永遠です”とお伝えしました」
「アニメ・ボストンに限らず、世界各地で行われている日本のアニメファンイベントで『犬夜叉』のキャラクターのコスプレをされている方を多く見かけます。年齢層は幅広く、男女問わず愛されていることは嬉しいことです。初回放送から20年近く経過していますが、卒業せずに想いを持続してもらっているのは完結していることが理由のひとつにあるのかもしれません。安心して自分たちの“持ち物”として持ち続けてくれているように思います。そして、次の展開を考えたいぐらいの世界観がありますから、ボストンでもファンの方に“これからも永遠です”とお伝えしました」
「アニメ・ボストン」の会場で、熱心な「犬夜叉」コスプレイヤーと記念撮影する諏訪氏。
アニメは国内ではもはやニッチな層だけでなく、すそ野が広いコンテンツとして扱われています。海外でも幅広い地域で継続して展開していくことで同じような状況が期待できるかもしれません。『犬夜叉』の成功事例からそんな思いを抱きました。
【文・長谷川朋子(はせがわ・ともこ)】
執筆者プロフィール
テレビ業界ジャーナリスト。放送業界専門誌のテレビ、ラジオ担当記者。仏カンヌで開催されるテレビ見本市MIP現地取材歴は10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に、多数媒体で執筆中。「Yahoo!個人ニュース」「日経トレンディネット」「マイナビニュース」「オリコン」「週刊東洋経済」など。国内外で番組審査員や業界セミナー講師、ファシリテーターなども務める。
【文・長谷川朋子(はせがわ・ともこ)】
執筆者プロフィール
テレビ業界ジャーナリスト。放送業界専門誌のテレビ、ラジオ担当記者。仏カンヌで開催されるテレビ見本市MIP現地取材歴は10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に、多数媒体で執筆中。「Yahoo!個人ニュース」「日経トレンディネット」「マイナビニュース」「オリコン」「週刊東洋経済」など。国内外で番組審査員や業界セミナー講師、ファシリテーターなども務める。
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