カンヌで日韓中がテレビ番組フォーマットのピッチ合戦

2018.06.02

世界と繋がるテレビの話「世界とコネクトテレビ論」の第2回目は日本と中国、韓国がフランス・カンヌで行ったテレビ番組フォーマットのピッチ合戦をお伝えします。それぞれお国柄をみせながら、世界の番組マーケットでの立ち位置を表していました。

ピッチ合戦が行われた場所はフランス・カンヌ。今年4月に開催された業界イベントの「MIPFormats(ミップ・フォーマッツ)」で日本と中国、韓国のそれぞれが世界に売りたいバラエティやドラマのオリジナルフォーマットをセールスピッチする場を作りました。

その様子をお伝えする前に、番組流通用語について説明すると、番組流通マーケットでは番組を“フォーマット”化して取引する売り方もあります。番組のアイデアはそのままに、エッセンスだけを抽出することで、文化的な背景や出演者などをどの国でもアレンジしやすくするためです。今回はそのフォーマットとして売るためのピッチでした。このピッチも番組流通マーケットではよく行われています。企画段階で制作資金集めを目的に行うコンペティション形式を中心に、企画発表することを“ピッチ”と呼んでいます。
では、どのようなピッチ合戦が行われたかをまずは国別に紹介していきます。

日本は「トレジャー・ボックス・ジャパン」というプログラム名で、2012年からカンヌでバラエティ番組のセールスピッチを続けています。NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ、朝日放送、読売テレビの8社が横並びで登壇し、映像を見せながらTEDトークのようなパフォーマンスでセールスポイントを説明しました。読売テレビがピッチした番組は『物置開けてみませんか?』。身近にあるのに放置されていることもあり謎が多い“物置”を開けて中身を掘り起こしていくという、今年の正月特番で放送されたものです。
読売テレビは「物置」をテーマにした番組をプレゼン
日本勢のピッチに対する評価は、時間内に毎度収める日本人らしい正確さはさておき、これまで例えば、眠れない声に耳を傾ける『おやすみ日本』(NHK)の着想に拍手が起こったこともありました。先の“物置”といい、身近なものをエンタメ化させる細やかな発想力が「世界にはありそうでない番組アイデアが日本の番組には詰まっている」と言わせています。
日本の放送局8社共同で実施するセールスピッチ 「トレジャー・ボックス・ジャパン」 © S. CHAMPEAUX - Image & Co
お次は中国。中国がオリジナルフォーマットを公開ピッチするのは初めてのことでした。音楽番組など大型のスタジオセットを使ったオーソドックスな番組を揃えたという印象は否めませんでしたが、プレゼンターの打ち出し方に思わず釘付けになりました。というのも、番組の内容と同時に、プレゼンターのプロフィールを丁寧すぎるほど説明していたからです。「プロデューサーの私はこのような素晴らしい経歴を持ち、中国から今回、自信作を持ってきました」と言わんばかりの押しの強さ。さらにそれを仕切るのは中国国営テレビ局CCTVで絶大な人気を集めているというトーク番組『Readers』の司会者ドン・チン氏。プログラム名の「Wisdom in China」は「中国の知恵」という意味の他、「中国の賢人」にも引っ掛けていそうです。それだけ、中国では勢いのあるテレビ番組に国際感覚を持った優秀な人材が集まっていることも示しているようでした。
中国のセールスピッチ「Wisdom in China」
さて、韓国はと言うと、これまた対照的に余計なパフォーマンスは一切なし、肩の力が抜けた手慣れた様子を巧みにみせていました。プログラム名も思い入れを排除した「K-Formats」というシンプルなもの。番組は韓国らしくアイドル出演の音楽バラエティーショーから世界で売れているドラマの新作まで揃えていました。なかには『Boy or Man』(CJ E&M)という若い男性とミドルエイジの男性との恋愛はどっちがお得かといった、アジア的な発想を活かした挑戦的な番組も投げながら、「アイデアあり、実績ありの韓国と組むことのお得感」を印象づけていました。
韓国のセールスピッチ「K-Fomrats」

イスラエルと読売テレビは番組フォーマットを共同開発

日本、中国、韓国それぞれのピッチ合戦を比べて、どの国が勝っているのか劣っているかということを伝えたいわけではありません。世界の番組マーケットで今、どの立ち位置にあるかを読み取りたかったからです。中国は制作資金に物を言わせているだけでなく、若さと国際化が進む人材力を武器にのし上がりつつあります。また韓国はさっさと次のステージに向かっています。映像の世界はハリウッドを中心に回り、フランスで行われるこのマーケットではコミュニティを固めるヨーロッパのビジネススタイルが求められます。そこに自然体で入り込んでいる韓国の姿が今回のピッチからもみえてきました。

そして日本はどうでしょうか。同じ日本人の立場からは客観的にみえにくい部分もありますが、公式コメントでは得られない本音の感想を耳にするとき、日本スタイルからなかなか脱却できていないことを痛感させられます。一方で、調和を好む日本人ならではの戦法もあるのではないかと思っています。

そのひとつが他国と二人三脚で番組を開発すること。読売テレビはこの4月にイスラエルとオリジナルの番組フォーマットを共同で開発する協定を結んだところです。イスラエルと言えば、マーケットトレンドをいち早くキャッチし、目を引くセットやわかりやすいコンセプトの番組作りに定評があります。加えて、商売上手。カンヌで以前、イスラエルのプロダクショントップらが「決して安く売ってはいけない。費用対効果をうたうのも豪語同断。コンセプトやストーリーなど番組の中身に価値を向けさせるべき」と口を揃えて語っていたことがありました。そんなやり手のイスラエルの中でもヒット番組を連発する番組制作・企画・配給会社のKESHET INTERNATIONAL(ケシェット・インターナショナル)と読売テレビは組むことになりました。

最低1本の共同開発番組の放送を目指し、両社からプロデューサー/ディレクターを3~5名ずつ出席する番組企画会議を行う計画を立てています。会議の頻度は2か月に1~2回程度を予定し、企画が練り上がったところで読売テレビが制作・放送を担当し、販売は世界にルートが既にあるKESHETが担当していくそうです。

時間も労力もかかりつつも、取り組む価値はありそうです。どこかのタイミングでその成果を伺い、ここでまたお伝えしたいと思います。他国と組みながら、理想の立ち位置を固めていくことができそうか、そのあたりも注目したいポイントです。

【文・長谷川朋子(はせがわ・ともこ)】


執筆者プロフィール
テレビ業界ジャーナリスト。放送業界専門誌のテレビ、ラジオ担当記者。仏カンヌで開催されるテレビ見本市MIP現地取材歴は10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に、多数媒体で執筆中。「Yahoo!個人ニュース」「日経トレンディネット」「マイナビニュース」「オリコン」「週刊東洋経済」など。国内外で番組審査員や業界セミナー講師、ファシリテーターなども務める。
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