お笑いへのエナジーとかわいげ。「ゼンモンキー」に見る無限の奥行き

2021.02.10

お笑いへのエナジーとかわいげ。「ゼンモンキー」に見る無限の奥行き
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2月15日に開催される「お笑いABEMA CUP~ワタナベNo.1決定戦」に結成1年目で出場するのがお笑いトリオ「ゼンモンキー」です。「四千頭身」「土佐兄弟」「Aマッソ」ら売れっ子コンビを向こうに、ワタナベエンターテインメントに所属する若手芸人の頂点を目指します。ヤザキさん(24)、荻野将太朗さん(24)、むらまつさん(24)がそれぞれ違う味を持つトリオですが、共通するのはお笑いへの強烈なエナジーでした。


―ツワモノぞろいの「ワタナベ№1決定戦」決勝に進出が決まりました。2020年4月結成で、キャリアまだ10カ月ほどでのチャンス到来となりました。

ヤザキ:まさか行けるとは思ってなくて。予選の時も、ネタが終わって楽屋でゆっくりしてたら、いきなり「ゼンモンキー」という声が聞こえてきて。何が起こったのか分からないままステージに出たら、決勝進出だと。あまりにも予想外で、実感が湧いてくるまでかなり時間がかかったくらいでした。

むらまつ:ワタナベの養成所に3人別々に入ってきて、それぞれがたまたま組んでいたコンビがほぼ同時期に解散になったんです。そこで、僕がヤザキを誘って、その次の日に荻野君が解散したので誘ってという流れでした。

―皆さん、お笑いへの思いは強かったんですか?

ヤザキ:僕は小学校の時とかに「東京03」さんとか「さまぁ~ず」さん、「バナナマン」さんに憧れて、ライブに行ったりもしてたんです。

中学、高校と進んでいっても、ずっとお笑いに興味はあったんです。でも、オトナに近づいていく中で、その道がいかにギャンブル性が高い道であるかも分かってくるわけです。

思いはあるんだけど、そこに飛びこむのはまた別。そんな感覚で大学に入ったんですけど、就職活動用にスーツを買った時に、瞬間的に思ったんです。

「人生、一回きり。今、芸人にならなかったら、もうなれない」


就職活動、そして、その先が見えた気がしたんです。このまま会社員として就職して、結婚して、定年まで働いて…というのが。踏み出すなら今しかないなと。

…あと、これはものすごくリアルな話なんですけど、実家が土木とかの会社をやっているので、もし何かあっても、そこで仕事はできる。これを言うと、一気にテイストが変わる話かもしれませんけど(笑)、ごまかすのはアレですし本当に正直なところを言うと、それもあって一歩を踏み出したところもあったんです。そして、ワタナベの養成所に入りました。

むらまつ:僕は子どもの頃はそれほどお笑いが好きということもなかったんですけど、高校時代、同級生からお笑いをやろうと誘われまして。

大学も同じところに入ったので、そこから1年ほどはお笑いも続けていたんですけど、そのうち、大学に入っている意味を見出せなくなってしまって中退したんです。

それから地元で親戚のおじちゃんがやっている工場で働き始めたんですけど、工場での仕事が忙して、どんどんお笑いというものからは離れていきまして。

働いて2~3年ほど経った時に、おじちゃんから「お前も、この溶接を10年後にはできてなきゃいけないんだぞ」と言われたんです。

その瞬間、これまで遠いところに置いていたお笑いへの思いが一気にこみ上げてきて「オレ、溶接ではなく、お笑いがやりたいんだけどな」と思ったんです。そして、今から思うと本当に申し訳ないんですけど、工場をいきなり辞めて、ワタナベの養成所に入ったんです。

―なるほど…。その後、おじちゃんとの関係性は大丈夫でした?

むらまつ:この前、実は、数年ぶりに再会しまして。「ごめんなさい」と謝ったら、おじちゃんも泣いていて。迷惑をかけてしまいましたけど、何とか、そこで“ひずみ”みたいなものをきっちりと直すことができました。

荻野:僕は子どもの頃からお笑いは好きだったんです。ただ、人前に出て何かをやるようなタイプではなかった。

ただ、大学(早稲田)に入ったら、お笑いサークルがありまして。「お笑い工房LUDO」というところで「ハナコ」の岡部さんとか今活躍されているプロの芸人さんを輩出したサークルなんですけど、先輩方も面白そうだったので、入ってみようと。

最初は、もともとの性格もあって、人前に出るのが決して得意ではなかったんですけど、2学年上の今は「にゃんこスター」として活動されているアンゴラ村長さんが組んでくださって舞台に出たんです。

じゃ、そこで、初めて自分が言った言葉でお客さんが笑ってくれるということを経験しまして。それが、すごくうれしかったんです。

その後、そのアンゴラ村長さんが「キングオブコント2017」で準優勝しているのを見て、自分の中で大きな衝撃を受けたんです。自分と同じステージに立っていた人があんなに大きな舞台でやってらっしゃる。その瞬間、自分もやってみたいと思って、アンゴラ村長さんと同じワタナベに入れたらと思って養成所に入ったんです。
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ヤザキ(左)、萩野将太朗(中)、むらまつ(右)
―それぞれが別の道を経て、そして、強い思いを持って吐いたお笑いの世界。そこで出会って組むことになったわけですが、組んでみて感じたことはありましたか?

むらまつ:トリオで組んで去年の春から所属になったんですけど、いきなり新型コロナ禍で動きが止まってしまいまして。

さあ、ここから活動スタートで頑張るぞというタイミングで何もできなくなって。3カ月ほど動けなくて、不安しかない中で、事務所の配信のライブに出てネタをしたんですけど、その一回のネタを「ハナコ」の秋山さんが見てくださっていたようで。

ツイッターで「『ゼンモンキー』というトリオが面白い」とつぶやいてくださったんです。その時は3人がシーツの端っこを持ってやるようなネタだったんですけど「自然にソーシャルディスタンスがとれていて、それがネタにもなっていてすごい」と誉めてくださって。

コロナ禍で何もできず、何の手ごたえもつかみようがなかった中で、秋山さんがそれを言ってくださったことはすごく大きかったですし、それで「トリオでやっててもいいのかな」と思えるようにもなったんです。

―今後の展望は?

ヤザキ:まずは15日の「ワタナベ№1決定戦」で優勝を目指します。そして、なんとか「キングオブコント」優勝も実現できればなと思っています。

荻野:お名前を出すのは烏滸がましいですけど「ネプチューン」さんのような形になれたらなとは思っているんです。

俳優、MC、IPPONグランプリ…。お三方がそれぞれ個性を発揮されていて、お一人お一人が個々でもすごいし、集まった時にはさらに面白い。そういう存在になれたらなとは思っているんです。

もちろん、はるか先にある目標ですけど、いつの日か、近づけたらなと思っています。

■取材後記
昨年4月に結成。コロナ禍もあり、ほとんど活動もできない。ましてや、取材を受けるような機会もない。

そういう中でのインタビューとなったので、話す前に「誰がどこの位置に座った方がいいとか、取材のルールみたいなのがあるんですかね?」とイノセントな目で尋ねられました。

「写真は後ほどいただきますので、お話をいただく時は、好きなように、話しやすいように座ってくださいね」と答えつつ、長年の取材で、いつの間にか、慣れという“水あか”がつきまくった自分の目の曇りがスキッと晴れる気がしました。

インタビュー後も、ヤザキさんが大きな体をかがめながら「なんだか、だいぶ大きなことばっかり言ってしまいましたけど、なんともすみません…。こんな感じで良かったんですかね?ちゃんとしゃべれなくて、すみません」とおっしゃってました。

ネタの完成度と将来性。そこに、かわいげ。まずは1年後、どれほど成長されているのか。今から楽しみでなりません。
執筆者プロフィール
中西 正男(なかにし まさお)
1974年生まれ。大阪府枚方市出身。立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚などを大阪を拠点に取材。桂米朝師匠に、スポーツ新聞の記者として異例のインタビューを行い、話題に。2012年9月に同社を退社後、株式会社KOZOクリエイターズに所属し、テレビ・ラジオなどにも活動の幅を広げる。現在、朝日放送テレビ「おはよう朝日です」、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」などにレギュラー出演。また、Yahoo!、朝日新聞、AERA.dotなどで連載中。
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