劇伴音楽のヒットメーカー・林ゆうきに聞く、劇伴制作の裏側 テレビアニメ「ラブオールプレー」への思いも
2022.04.09
高校のバドミントン部を舞台に、中学時代は無名だった主人公・水嶋亮がインターハイ優勝を目指し、日々成長していく姿を描くテレビアニメ「ラブオールプレー」(読売テレビ・日本テレビ系、土曜午後5時半)が4月2日からいよいよスタートした。物語を彩る伴奏音楽(劇伴)を手がけるのは、ドラマ「リーガルハイ」、「あなたの番です」、テレビアニメ「ハイキュー!!」、「僕のヒーローアカデミア」など、幅広く手がけるヒットメーカー・林ゆうきさん。劇伴収録の合間に取材に応じてくれた林さんに、制作の裏側を聞いた。
--収録おつかれさまです。とても心地の良い、爽やかなサウンドで、アニメ映像と融合したらどんな形になるのだろう?とわくわくしながら聞いておりました。
林:先ほどの楽曲は、朝起きて、家族とご飯を食べて家を出るところとか、登校中に友達と会って、「おはよう」と言いながら学校に向かうところをイメージして作りました。
--ギター、ドラムなどのリズム隊、ホルン、トランペットなどのオーケストラと、3日間にわたって、劇伴収録をされたそうですね。
林:劇伴収録は、毎回やっていて一番楽しいところの1つです。基本的に僕が家で作ってくるのは大枠で、いろいろなミュージシャンの方に来てもらって、ギターをいれたり、ドラムをいれたり、だんだん本物に入れ替わっていく。音が変わってから、「もっとこうしてみよう!」というアイディアが出たりするので、バドミントンで言うと、“ラリー”ですね。ラリーしながら、作品をより高めていくことをしているので毎回楽しみです。
--林さんは、高校、大学時代と、男子新体操部だったとお聞きしました。今回の「ラブオールプレー」のオファーを受けたときの思いを教えてください。
林:やっぱりスポーツものをやれるのはうれしいです。競技はちがえど、まわりの人間関係など取り巻くものは近しいところはあるので、それを描けるというのはありがたいな、という気持ちはすごくあります。
--今回は全42曲制作されたそうですね。制作サイドからは、どのようなオファーがあったのでしょうか。
林:全体の構成や、「こんな音がほしい」といったお話がありました。僕らは曲を作る立場ではあるけれども、日本のアニメの場合は、音響監督さんという役職の方がいて、どういうメニューを作曲家に発注するかを決めています。たとえば、メインテーマがあって、「恋が始まったとき」とか「ちょっと失恋をしたとき」など、いろいろなものがリストになっているんです。それを見ながら作品全体のことを捉えつつ、同じカテゴリだったら「こっちはギターでやったから、ピアノでやってみよう」と変化をつけたり、バランスを取ったりしながら、全体のことを考えて作っています。
熱血なラリーを見せて映えるであろうシーンもあるし、その次の手で相手をひっかけてやろうとクレバーな考えをしている、まるで氷と炎が同居しているようなスポーツだなと思って。その感じを音楽でどういう風に表現できるかなというのを打ち合わせでお話いただきました。
--オファーを受けてからは、具体的にどのような流れで進んでいくのでしょうか。
林:まず、どういう作品なのかを理解して、締め切りはいつなのか、予算はいくらぐらいなのか、そして自分のスケジュールを確認します。基本的にできないことを頼まれて、「できません」というのは簡単なので、「(予算的に)これはできないですけど、こうしてみませんか?」と提案するようにしていて。
たとえば、料理で言えば、「牛肉を100%使ったハンバーグを作りたい」と思っているけれど、「予算が50円しかありません」という場合。「豆腐で作ってみましょう」と提案した結果、ヘルシーになってよかったね、みたいなことがあるんです。音楽でいうと、「この音響はできないけれど、代わりにこうしてみませんか?」ということができる。そういうことも考えつつ、どういうスケジュール感で、どんな構成でやるのかを決めていって。メインテーマができたら(制作陣に)まず聞いてもらって、OKをいただいたら、同時進行で(何曲も)作っていって……。
--同時進行で(!)。今回の制作期間はどれくらいだったのでしょうか?
林:実は、ほかの作品もやりつつ……だったので、2、3週間くらいだったと思います。モチーフやアイディアを集める時間を入れたら、もっとかかっていますが、実際の制作でいうとそれぐらいです。
--楽曲制作の前に、アニメ映像を見ることはできるのでしょうか?
林:事前に映像があるかどうかは、作品によってバラバラです。絵コンテがあったり、ちょっと色がついていたり、色がついていないときもあります。海外の作曲家の場合は、映像が絶対にあるのですが、僕ら(日本)の場合は、映像で使われるであろう楽曲を、映像に合わせずに楽曲を作る選曲システムに乗っかった音楽の作り方をしているんです。映像がなくても、それをイメージして楽曲が作れるという“想像力”が大切です。
--映像がない中で制作される上での苦労はございますか?
林:そこの感覚がいい人、悪い人はいると思いますが、そこは数をこなせば……(笑い)。料理に例えると、「おいしいものを食べたい」と言われて、「イタリアン? 中華? 肉なの? 魚なの? どんな野菜がいいの?」などと聞いていくと、その人が求めているものがわかったりしますよね。その人が具体的に言えないイメージを出せる能力も必要だと思います。
--林さんはドラマの劇伴も多く手がけられています。アニメとドラマの劇伴で、向き合い方の違いはありますか?
林:アニメの場合、曲数は多いのですが、1曲の尺はだいたい1分半くらいです。短いものは1分ないものもあります。ドラマの場合、曲数は少ないですが、長くかけることもあるので1曲ずつの尺が長い。アニメは場面展開が多く、曲数も多いんです。
アニメの方が、良い意味でわざとらしく作ったりすることはあります。実写(ドラマ)って、風がゆらゆら揺れたり、人が動いていたり、それだけで間が持つんです。アニメでは、画だけなので、声優さんがセリフをしゃべっていないと無音で過ごすしかない。そこはやっぱり音楽で説明するところが大きいので、全体の味付けを濃いめにはしています。
--音楽は、作品の雰囲気を全く違う印象にする、とても大事なものだと思います。楽曲を制作する上で、大切にされていることはございますか?
林:僕はもともと音楽をやってきたわけではなく、男子新体操というスポーツをやっていて。その後ろに流れる伴奏曲が、演技を作る上で重要だなと思っています。違う曲をあてるだけで、演技がガラッと違うように見える、そういう音楽を作ることが楽しいなと思っています。映像を作る側の気持ちの方が強くて、映像を良く見せるために音楽が必要で、音楽を作っているというスタンスなんです。
「こういう曲がほしいんだ」という気持ちがなんとなくわかるから、それで使って(オファーを)もらえているのかなと思っています。ミュージシャン仲間からは「こっちの方がおしゃれじゃない?」「こっちのコード進行の方がかっこいいよ」と言われることもあるんですけど、それはミュージシャンの意見であって、受け取る側のお客さんがどう思うかというのは別軸。受け取る側の気持ちと、ミュージシャンの気持ちと、その真ん中にいられるようにバランスを取る、という感覚が一番大事だなと思いながらやっています。
--楽曲のかけるタイミングなど、「こんな使い方をするんだ!」と思われたことはありますか?
林:そういうことは、日本の作曲家あるあるで(笑い)。「よし、ここでストリングスが~ってときに、CMになったり。その曲を歌ってもらっている人から、「イントロだけだった」ってメッセージが来ることもありますが、「すみません、こういうことはよくあることなんです」ってお伝えしています(笑い)。
--オンエアまでドキドキですね。
林:「これをイメージして作りました」という楽曲が、別のところで流れるというのは多々あります。意図していなかったけれど、よかったねということの方が多いです。僕は、音楽単体で好きというよりかは、映像に合っていてそれがいいものになったときに、「すごくいいものができた!」と思います。映像に合わせて音楽を作って、1秒ずれているだけであんまりよくないなと思うものも、ちょっとずらしたら鳥肌が立つくらい「すごくよかった、今!」みたいな瞬間を作れることがあって。プラスにできるのは当たり前で、音楽と映像が“×(かける)”になる瞬間があって、それを意識しています。そういう瞬間を作れるというのは貴重なことですし、幸せなことですね。
【取材・文/堀部 友里】
--収録おつかれさまです。とても心地の良い、爽やかなサウンドで、アニメ映像と融合したらどんな形になるのだろう?とわくわくしながら聞いておりました。
林:先ほどの楽曲は、朝起きて、家族とご飯を食べて家を出るところとか、登校中に友達と会って、「おはよう」と言いながら学校に向かうところをイメージして作りました。
--ギター、ドラムなどのリズム隊、ホルン、トランペットなどのオーケストラと、3日間にわたって、劇伴収録をされたそうですね。
林:劇伴収録は、毎回やっていて一番楽しいところの1つです。基本的に僕が家で作ってくるのは大枠で、いろいろなミュージシャンの方に来てもらって、ギターをいれたり、ドラムをいれたり、だんだん本物に入れ替わっていく。音が変わってから、「もっとこうしてみよう!」というアイディアが出たりするので、バドミントンで言うと、“ラリー”ですね。ラリーしながら、作品をより高めていくことをしているので毎回楽しみです。
--林さんは、高校、大学時代と、男子新体操部だったとお聞きしました。今回の「ラブオールプレー」のオファーを受けたときの思いを教えてください。
林:やっぱりスポーツものをやれるのはうれしいです。競技はちがえど、まわりの人間関係など取り巻くものは近しいところはあるので、それを描けるというのはありがたいな、という気持ちはすごくあります。
--今回は全42曲制作されたそうですね。制作サイドからは、どのようなオファーがあったのでしょうか。
林:全体の構成や、「こんな音がほしい」といったお話がありました。僕らは曲を作る立場ではあるけれども、日本のアニメの場合は、音響監督さんという役職の方がいて、どういうメニューを作曲家に発注するかを決めています。たとえば、メインテーマがあって、「恋が始まったとき」とか「ちょっと失恋をしたとき」など、いろいろなものがリストになっているんです。それを見ながら作品全体のことを捉えつつ、同じカテゴリだったら「こっちはギターでやったから、ピアノでやってみよう」と変化をつけたり、バランスを取ったりしながら、全体のことを考えて作っています。
熱血なラリーを見せて映えるであろうシーンもあるし、その次の手で相手をひっかけてやろうとクレバーな考えをしている、まるで氷と炎が同居しているようなスポーツだなと思って。その感じを音楽でどういう風に表現できるかなというのを打ち合わせでお話いただきました。
--オファーを受けてからは、具体的にどのような流れで進んでいくのでしょうか。
林:まず、どういう作品なのかを理解して、締め切りはいつなのか、予算はいくらぐらいなのか、そして自分のスケジュールを確認します。基本的にできないことを頼まれて、「できません」というのは簡単なので、「(予算的に)これはできないですけど、こうしてみませんか?」と提案するようにしていて。
たとえば、料理で言えば、「牛肉を100%使ったハンバーグを作りたい」と思っているけれど、「予算が50円しかありません」という場合。「豆腐で作ってみましょう」と提案した結果、ヘルシーになってよかったね、みたいなことがあるんです。音楽でいうと、「この音響はできないけれど、代わりにこうしてみませんか?」ということができる。そういうことも考えつつ、どういうスケジュール感で、どんな構成でやるのかを決めていって。メインテーマができたら(制作陣に)まず聞いてもらって、OKをいただいたら、同時進行で(何曲も)作っていって……。
--同時進行で(!)。今回の制作期間はどれくらいだったのでしょうか?
林:実は、ほかの作品もやりつつ……だったので、2、3週間くらいだったと思います。モチーフやアイディアを集める時間を入れたら、もっとかかっていますが、実際の制作でいうとそれぐらいです。
--楽曲制作の前に、アニメ映像を見ることはできるのでしょうか?
林:事前に映像があるかどうかは、作品によってバラバラです。絵コンテがあったり、ちょっと色がついていたり、色がついていないときもあります。海外の作曲家の場合は、映像が絶対にあるのですが、僕ら(日本)の場合は、映像で使われるであろう楽曲を、映像に合わせずに楽曲を作る選曲システムに乗っかった音楽の作り方をしているんです。映像がなくても、それをイメージして楽曲が作れるという“想像力”が大切です。
--映像がない中で制作される上での苦労はございますか?
林:そこの感覚がいい人、悪い人はいると思いますが、そこは数をこなせば……(笑い)。料理に例えると、「おいしいものを食べたい」と言われて、「イタリアン? 中華? 肉なの? 魚なの? どんな野菜がいいの?」などと聞いていくと、その人が求めているものがわかったりしますよね。その人が具体的に言えないイメージを出せる能力も必要だと思います。
--林さんはドラマの劇伴も多く手がけられています。アニメとドラマの劇伴で、向き合い方の違いはありますか?
林:アニメの場合、曲数は多いのですが、1曲の尺はだいたい1分半くらいです。短いものは1分ないものもあります。ドラマの場合、曲数は少ないですが、長くかけることもあるので1曲ずつの尺が長い。アニメは場面展開が多く、曲数も多いんです。
アニメの方が、良い意味でわざとらしく作ったりすることはあります。実写(ドラマ)って、風がゆらゆら揺れたり、人が動いていたり、それだけで間が持つんです。アニメでは、画だけなので、声優さんがセリフをしゃべっていないと無音で過ごすしかない。そこはやっぱり音楽で説明するところが大きいので、全体の味付けを濃いめにはしています。
--音楽は、作品の雰囲気を全く違う印象にする、とても大事なものだと思います。楽曲を制作する上で、大切にされていることはございますか?
林:僕はもともと音楽をやってきたわけではなく、男子新体操というスポーツをやっていて。その後ろに流れる伴奏曲が、演技を作る上で重要だなと思っています。違う曲をあてるだけで、演技がガラッと違うように見える、そういう音楽を作ることが楽しいなと思っています。映像を作る側の気持ちの方が強くて、映像を良く見せるために音楽が必要で、音楽を作っているというスタンスなんです。
「こういう曲がほしいんだ」という気持ちがなんとなくわかるから、それで使って(オファーを)もらえているのかなと思っています。ミュージシャン仲間からは「こっちの方がおしゃれじゃない?」「こっちのコード進行の方がかっこいいよ」と言われることもあるんですけど、それはミュージシャンの意見であって、受け取る側のお客さんがどう思うかというのは別軸。受け取る側の気持ちと、ミュージシャンの気持ちと、その真ん中にいられるようにバランスを取る、という感覚が一番大事だなと思いながらやっています。
--楽曲のかけるタイミングなど、「こんな使い方をするんだ!」と思われたことはありますか?
林:そういうことは、日本の作曲家あるあるで(笑い)。「よし、ここでストリングスが~ってときに、CMになったり。その曲を歌ってもらっている人から、「イントロだけだった」ってメッセージが来ることもありますが、「すみません、こういうことはよくあることなんです」ってお伝えしています(笑い)。
--オンエアまでドキドキですね。
林:「これをイメージして作りました」という楽曲が、別のところで流れるというのは多々あります。意図していなかったけれど、よかったねということの方が多いです。僕は、音楽単体で好きというよりかは、映像に合っていてそれがいいものになったときに、「すごくいいものができた!」と思います。映像に合わせて音楽を作って、1秒ずれているだけであんまりよくないなと思うものも、ちょっとずらしたら鳥肌が立つくらい「すごくよかった、今!」みたいな瞬間を作れることがあって。プラスにできるのは当たり前で、音楽と映像が“×(かける)”になる瞬間があって、それを意識しています。そういう瞬間を作れるというのは貴重なことですし、幸せなことですね。
【取材・文/堀部 友里】
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