今のメディアは信頼できるか、できないか。この番組だからやるべき大切な議論
2022.12.23
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12月18日放送の「そこまで言って委員会NP」は「メディアの未来を考える」。何かと議論が巻き起こるネットとマスメディア、双方の問題を正面から取り上げた。この番組自身もメディアの一つであり、論客たちも報じる側が多い。議論の中で、特に盛り上がったのは「今のメディアは信頼できるか、できないか」だった。
堀潤氏(ジャーナリスト)は「マスメディアは信頼するか、しないかの対象ではない」と回答。
「そもそも、“情報”は純粋な事実ではなく、発信する人のフィルターを通すものだ。 情報に対して受け取る側は『そうなんだ、でも本当かな、他の情報はいったいどうなのだろうか』と考えるべきだ。一つの情報を信じきってしまうことは、その情報に身を預ける行為となる。そんなことは(受け手として)してはいけないと思う。」と述べた。
竹田恒泰氏(作家)はテレビ局員による過去の問題発言にも触れつつ、最近騒動になったテレビ朝日の玉川徹氏の発言を取り上げる。
「ずいぶん前に『椿発言』というものがあった。1993年、当時テレビ朝日報道局長の椿貞良氏が『次の総選挙は政権交代させる方向で番組を作る』と局内で話し合っていた…とされる事案で、当時大問題になった。同じ局の玉川徹氏も安倍晋三元総理の国葬に『電通が入っている』と発言し、批判を浴びた。電通云々の部分より、『僕は演出側の人間ですから、そういうふうに作りますよ』と、自分がこれまで番組制作で政治的意図を持って演出をしていたと、匂わせるような発言だったと思う。こちらの方が問題ではないか。」と、テレビ局による恣意的な報道があるのではと指摘すると、過去に報道記者だった番組政策秘書・野村明大アナがこれに反応。
「報道部に配属されるまでは『テレビの報道は、どこか取材が不足的なところもあるだろう』とテレビ局に勤めながらも思っていたが、 実際にテレビの報道現場に接すると、取材内容の裏取りや報道デスクのチェックがあり、最終的には虚偽内容はそぎ落とされる。思っている以上にテレビ局の報道はしっかりとした体制が敷かれている。」と説明。
これに須田慎一郎氏(経済ジャーナリスト)がつっこむ。
「それはある意味で建て前ではないか。様々なニュースがある中で“これは報道する、これは報道しない、それはエッジを立てる”という形で、一定の方向にニュースを誘導することは往々にしてあると感じる。」
言われた野村アナは反論しようとするが、大空幸星氏(NPO法人「あなたのいばしょ」理事長)がさらに重ねる。
「そこが結構本質的な問題だと思う。フェイクニュースを垂れ流すのはダメだが、人間にはそれぞれ個別の意見があるもので、その意見を出してしまったらいいと思う。別にテレビ局が、政治的な意図を持って発言してもいいのではないか。今も各局の報道において(多少なりとも)政治的意図は反映されている様に感じてしまう。そこを“やっていない”と、きれいごとを言っているのが問題。」
そんな中、古舘氏は新聞・テレビを擁護する。
「ネットを悪者にするわけではないが、フェイクニュースによって、(ネット上の人々の思想などが)一定方向に誘導されがちなことは間違いないだろう。なぜならフェイクニュースの方が面白いから。新聞やテレビはオールドメディアだと言われるが、そのぶん、しっかりと取材の裏取りはする。その一点において、信頼してもいいメディアだと思う。」
番組議長・黒木千晶アナが元毎日新聞・元TBS政治部記者の龍崎孝氏(流通経済大学教授)に発言を求める。
龍崎氏は「今日はもう帰りたいですね。」と笑いを誘いつつも、熱を込めて語り出す。
「一点、本当に腹が立っている。私は記者として小沢一郎氏や野中広務氏の取材をしたが、そこに至るまで何十年もかかっている。その間、毎日20時間は取材して、365日がその積み重ねだった。会った人を世に知らしめてやろうとか、そんなチンケな考えで取材をするわけがない。自分の意図を持っているようなやつは、そこのポジションにたどり着かない。馬鹿にするんじゃないという話だ。」と記者のプライドをにじませた。
一方、RaMu氏(タレント)は素朴に感じたことを述べる。
「最近SNSでよく見るのが、ある人がつぶやいたものに、テレビ局がこぞって『この投稿使わせてくれ!』と集まる様子。あまりにもみんながやるからSNS上では、取材をせずに楽をしているみたいに思われている。」
大空氏が続ける。
「情報番組を見たら、ドライブレコーダーの交通事故の映像が毎日コンテンツとして出て消費されている。個人がとった異常気象の映像もコンテンツ化している。楽をしているとは言わないが、そういうことをしているのに、自分たちはものすごく裏取りして、ものすごくクオリティの高いもの出しています、みたいに綺麗ぶっているのが問題。やっていることと言っていることが全く違うということ。メディアをどう定義するか。個々人が持っているメディアの幅が広がっている。その上で、マスメディアの位置付けをぜひ考えてもらいたい。」
龍崎氏が再び熱く発言する。
「1つだけ誤解がないように言っておきたい。スマホなどの普及で事件の映像を集めることが簡単になった、そこは確かに楽をしているのかもしれないが、記者をやっていた時も、現場に行って周りの人ひとりひとりに状況を聞いて回っていた。多くの素材を集めて、本当に何が起こったかを追及していることだけは伝えておきたい。」
現場の記者たちを代弁するように語る龍崎氏だが、大空氏の一般的な目線もメディアのあり方について大切なことを含んでいるのかもしれない。
古舘氏がフォローする。
「事件の容疑者の中学時代の写真1枚手に入れるのに、どれだけ苦労しているか。で、他局は『抜かれた!』とか言っている。引いてこれを見たらバカっぽいかもしれないが、正しいニュースを伝えるために現場や報道記者らは凄く努力をしている。」
ここで黒木アナがまとめる。
「情報発信する側も、いろんな考え方の人たちが見ていることに、もっと想像力を働かせ、その上でいろんな事実を積み重ねて、 多角的な価値観を提示し続けることが、すごく重要だと思う。そのための勉強を惜しんではならないと思っている。」
野村アナが「さすが、議長は素晴らしいコメント。」と心から感心して言う。
須田氏も「今メモしようと思った。」とほめると黒木アナは
「いや、昨晩から悩んだ甲斐がありました。」とホッとしたように締めた。
メディアの問題に切り込むテレビ番組は今では他になかなか見つからない。メディアが揺れている時代だからこそ、この大切なテーマには何度でも番組で取り組んでもらいたいと思った。
【文:境治】
堀潤氏(ジャーナリスト)は「マスメディアは信頼するか、しないかの対象ではない」と回答。
「そもそも、“情報”は純粋な事実ではなく、発信する人のフィルターを通すものだ。 情報に対して受け取る側は『そうなんだ、でも本当かな、他の情報はいったいどうなのだろうか』と考えるべきだ。一つの情報を信じきってしまうことは、その情報に身を預ける行為となる。そんなことは(受け手として)してはいけないと思う。」と述べた。
竹田恒泰氏(作家)はテレビ局員による過去の問題発言にも触れつつ、最近騒動になったテレビ朝日の玉川徹氏の発言を取り上げる。
「ずいぶん前に『椿発言』というものがあった。1993年、当時テレビ朝日報道局長の椿貞良氏が『次の総選挙は政権交代させる方向で番組を作る』と局内で話し合っていた…とされる事案で、当時大問題になった。同じ局の玉川徹氏も安倍晋三元総理の国葬に『電通が入っている』と発言し、批判を浴びた。電通云々の部分より、『僕は演出側の人間ですから、そういうふうに作りますよ』と、自分がこれまで番組制作で政治的意図を持って演出をしていたと、匂わせるような発言だったと思う。こちらの方が問題ではないか。」と、テレビ局による恣意的な報道があるのではと指摘すると、過去に報道記者だった番組政策秘書・野村明大アナがこれに反応。
「報道部に配属されるまでは『テレビの報道は、どこか取材が不足的なところもあるだろう』とテレビ局に勤めながらも思っていたが、 実際にテレビの報道現場に接すると、取材内容の裏取りや報道デスクのチェックがあり、最終的には虚偽内容はそぎ落とされる。思っている以上にテレビ局の報道はしっかりとした体制が敷かれている。」と説明。
これに須田慎一郎氏(経済ジャーナリスト)がつっこむ。
「それはある意味で建て前ではないか。様々なニュースがある中で“これは報道する、これは報道しない、それはエッジを立てる”という形で、一定の方向にニュースを誘導することは往々にしてあると感じる。」
言われた野村アナは反論しようとするが、大空幸星氏(NPO法人「あなたのいばしょ」理事長)がさらに重ねる。
「そこが結構本質的な問題だと思う。フェイクニュースを垂れ流すのはダメだが、人間にはそれぞれ個別の意見があるもので、その意見を出してしまったらいいと思う。別にテレビ局が、政治的な意図を持って発言してもいいのではないか。今も各局の報道において(多少なりとも)政治的意図は反映されている様に感じてしまう。そこを“やっていない”と、きれいごとを言っているのが問題。」
そんな中、古舘氏は新聞・テレビを擁護する。
「ネットを悪者にするわけではないが、フェイクニュースによって、(ネット上の人々の思想などが)一定方向に誘導されがちなことは間違いないだろう。なぜならフェイクニュースの方が面白いから。新聞やテレビはオールドメディアだと言われるが、そのぶん、しっかりと取材の裏取りはする。その一点において、信頼してもいいメディアだと思う。」
番組議長・黒木千晶アナが元毎日新聞・元TBS政治部記者の龍崎孝氏(流通経済大学教授)に発言を求める。
龍崎氏は「今日はもう帰りたいですね。」と笑いを誘いつつも、熱を込めて語り出す。
「一点、本当に腹が立っている。私は記者として小沢一郎氏や野中広務氏の取材をしたが、そこに至るまで何十年もかかっている。その間、毎日20時間は取材して、365日がその積み重ねだった。会った人を世に知らしめてやろうとか、そんなチンケな考えで取材をするわけがない。自分の意図を持っているようなやつは、そこのポジションにたどり着かない。馬鹿にするんじゃないという話だ。」と記者のプライドをにじませた。
一方、RaMu氏(タレント)は素朴に感じたことを述べる。
「最近SNSでよく見るのが、ある人がつぶやいたものに、テレビ局がこぞって『この投稿使わせてくれ!』と集まる様子。あまりにもみんながやるからSNS上では、取材をせずに楽をしているみたいに思われている。」
大空氏が続ける。
「情報番組を見たら、ドライブレコーダーの交通事故の映像が毎日コンテンツとして出て消費されている。個人がとった異常気象の映像もコンテンツ化している。楽をしているとは言わないが、そういうことをしているのに、自分たちはものすごく裏取りして、ものすごくクオリティの高いもの出しています、みたいに綺麗ぶっているのが問題。やっていることと言っていることが全く違うということ。メディアをどう定義するか。個々人が持っているメディアの幅が広がっている。その上で、マスメディアの位置付けをぜひ考えてもらいたい。」
龍崎氏が再び熱く発言する。
「1つだけ誤解がないように言っておきたい。スマホなどの普及で事件の映像を集めることが簡単になった、そこは確かに楽をしているのかもしれないが、記者をやっていた時も、現場に行って周りの人ひとりひとりに状況を聞いて回っていた。多くの素材を集めて、本当に何が起こったかを追及していることだけは伝えておきたい。」
現場の記者たちを代弁するように語る龍崎氏だが、大空氏の一般的な目線もメディアのあり方について大切なことを含んでいるのかもしれない。
古舘氏がフォローする。
「事件の容疑者の中学時代の写真1枚手に入れるのに、どれだけ苦労しているか。で、他局は『抜かれた!』とか言っている。引いてこれを見たらバカっぽいかもしれないが、正しいニュースを伝えるために現場や報道記者らは凄く努力をしている。」
ここで黒木アナがまとめる。
「情報発信する側も、いろんな考え方の人たちが見ていることに、もっと想像力を働かせ、その上でいろんな事実を積み重ねて、 多角的な価値観を提示し続けることが、すごく重要だと思う。そのための勉強を惜しんではならないと思っている。」
野村アナが「さすが、議長は素晴らしいコメント。」と心から感心して言う。
須田氏も「今メモしようと思った。」とほめると黒木アナは
「いや、昨晩から悩んだ甲斐がありました。」とホッとしたように締めた。
メディアの問題に切り込むテレビ番組は今では他になかなか見つからない。メディアが揺れている時代だからこそ、この大切なテーマには何度でも番組で取り組んでもらいたいと思った。
【文:境治】
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